江戸時代の日本に戻れ 質と実を重んじる社会へ転換する時だ

大特集 人口減少はこわくない

細川 護熙 第79代内閣総理大臣
ライフ 社会
細川護熙氏 ©文藝春秋

 2012年末に「デフレ脱却」を掲げて第二次安倍政権が発足しました。翌年の春に黒田東彦氏が日銀総裁に就任し、異次元金融緩和政策を開始して、はや4年が経ちます。

 ところが、消費者物価指数の前年比上昇率2%という当初の目標はまったく達成されず、国民の間に「景気が良くなった」という実感もありません。この間、日銀はどんどん国債を買い続け、日銀保有国債残高は、昨年10月に史上初めて400兆円を突破してしまいました。このままでは、近い将来、ギリシアのように社会保障の大幅な削減や、預金の引き出し規制を迫られる事態に陥りかねません。

 率直に言って、私は「アベノミクス」の考え方は、現在の日本が直面している歴史的な構造変化を的確にとらえていないのではないかと思っています。ご承知のとおり、アベノミクスは、「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」の三本の矢を柱にしていますが、そこには「大胆」とか「機動的」とか「喚起する」などの言葉は踊っていても、根本的に日本の社会が変わりつつあるという認識が見られません。

 今日本が直面している構造変化は、人口増加社会から人口減少社会への転換であり、デフレの根本原因は、人口減少です。

 人口減少によって需要が減少しているのですから物価は安くなって当然です。現在、日本の総人口は前年比16万人減の1億2693万人です。減少傾向は6年連続しており、今のままの出生率(1.44)ならば、人口は2053年に1億人を割り込み、50年後の2067年には8800万人、さらに100年後の2117年には4500万人と、ほぼ江戸時代の人口に戻ります(国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口」による)。

 子どもを育てやすい社会にするべく、子育て支援や保育所の整備などを図ることはもちろん否定しませんが、それはいわば弥縫策に過ぎず、人口減少の大きな流れを変えることは不可能です。

 人口減少と同時に超高齢化が進む状況下では、市場が飽和状態となるのは避けられません。日本がデフレに陥っているのはいわば必然であり、小手先の金融緩和や財政出動などでは克服できない、構造的問題なのです。

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source : 文藝春秋 2017年06月号

genre : ライフ 社会