「〇〇話法」という言葉が流行っている。政策よりも候補者の決め台詞や切り返しの方が人々の記憶に残りがちで、メディアもそちらの方が盛り上がる。これは何も日本に限った話ではなく、米大統領選関連でも定型話法やそれを揶揄する投稿ばかりが流れてきてうんざりする。
質の低いミームが量産されるワケ
おそらく、メディアに表れる言葉はいずれ全てが定型の短文と化し、ミームになってしまうのだろう。ミームとは集団内の模倣行動を指す。要は、言い回し等が広く拡散すること。芸人の一発ギャグ、ネットスラング、突っ込みの決め台詞。定型化して広まると、誰もがそれを使うようになる。問題は、ミームの広まりが社会に何をもたらすのかである。
ヤフーニュースとコメント欄を例に考えてみよう。コメント欄はなぜ盛り上がるのか。沢山「いいね」がついたコメントが自分の予想の範囲内だと安心するからだ。元記事は殺到するコメントのための釣り餌でしかない。わざと批判コメントを誘い、コメントでPVを稼ぐ収益構造が記事媒体に存在しているため、その微々たる売り上げを狙って質の低いお決まりのミームが量産されるのである。
ミームの特徴は模倣の連鎖による増殖と一般化であり、そこでは個が埋没している。初めは風刺や皮肉の意図があったかもしれないミームも、増殖するとすぐにその価値を失う。「それってあなたの感想ですよね」がその最たるものだ。だが、こうした風潮を嘆いてみせる大メディアもしっかりミーム化している。朝日新聞が最近よく炎上するのは、ネットに阿(おもね)ったタイトルをつけたりコメント機能を活用したりして、自らバズるためのミーム化を狙っているからである。
では、何がミームとなりやすいのか。常に人々の共感を呼ぶのは妬み、嘲弄、怒りである。嘗ての2ちゃんねるのように、時には傷を舐め合い、時には仲間内で誰かを馬鹿にし合う名もなき弱者の空間が、大通りへ出てそこを占拠してしまったのである。
それが政治の世界にも及んでいるのが今の実情だ。SNSが日本で急速に広まった2010年代はまだ、政治家はテレビの方ばかり向いていた。ネット選挙の重要性が高まり、投稿を拡散するサクラが雇われ、バズらせることが目的になると、ミーム化そのものを狙った発信が増える。相手候補を貶す際にも半ば組織的にミーム化が行われるようになった。
日本はマウント傾向の文字メディアと親和性が高かった
興味深いのは、米国のネット選挙の現在の姿である。2016年の米大統領選におけるSNSの世論操作がおどろおどろしい陰謀論であったのに比べ、2020年は恐怖を煽ることが目的となり、現在は両陣営が相手を馬鹿にするキャンペーンを行っている。相手を馬鹿にしてマウントを取るというのは、先ほどの2ちゃんねるの文化そのもの。世界的にXのユーザー数が突出する日本は、そもそもそうした数を恃(たの)むマウント傾向の文字メディアと親和性が高かったのであろう。
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