人民元が基軸通貨になる日に備えよ
「BRICS諸国がドルから離れようとしているのを、黙って見ている時代は終わった。(中略)強力な米ドルを代替する通貨を支持することもないという確約を求める。さもなければ、100%の関税を課し、すばらしいアメリカでの販売に、さよならを告げることになるだろう」
アメリカのドナルド・トランプ次期大統領は2024年11月30日、SNSにこう投稿しました。ドルを基軸通貨とする現在のシステムへの挑戦に対する牽制です。確かに中国やロシア、インドなど新興5カ国を原加盟国とするBRICSは、ドルを貿易取引などで使用しない「脱ドル」を進めてきました。さらに2024年1月には、イラン、エチオピア、エジプト、アラブ首長国連邦の4カ国が新たに加わりました。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、「BRICS加盟国の貿易取引で、自国通貨の使用割合は65%に達している」と、ドル以外の取引が広がっていることをアピールし、ドルシステムに揺さぶりをかけています。
12月11日にはジャネット・イエレン米財務長官が、テレビのインタビューでドルの地位は「極めて強い米経済、流動性の高い資本市場、米国債が最も安全な資産であることに支えられている」と説明。そして、「ライバル通貨はない」と断言しました。
アメリカの次期大統領と現財務長官が立て続けにドルが今後も世界の基軸通貨であることを強調したのです。ドルの強さが盤石であれば、こんなことをあらためて言う必要はありません。彼らの発言はドルが唯一の基軸通貨でなくなる日が来るかもしれないという危機感の表れでしょう。一体ドルにいま何が起きているのか? まずはトランプ政権発足で世界経済はどうなるのかを予測してみます。
トランプ2.0で不況に?
エコノミストの間ではトランプ2.0によって、景気が停滞しているのに物価が上がるスタグフレーションに陥るリスクが高い、とよく言われています。トランプ氏が掲げる大幅減税や関税強化がインフレを促進するのは確かです。減税は総需要を刺激して物価上昇をもたらし、関税が高くなれば輸入品の価格も当然上がります。しかし、私はスタグフレーションにはならないと考えています。インフレは続くが、アメリカの景気は悪くならないどころか今後もしばらくは好調が続く。それが私の予測です。そう考える最大の理由はコロナ禍を経てアメリカの生産性がかなり向上したことにあります。
なぜ生産性が向上したか。一つにはコロナ禍で解雇された労働者が、高い賃金を支払う労働生産性の高い企業に就職したリシャッフル効果。二つ目は公衆衛生上の理由や、人手不足などから自動化が進み、資本深化(労働者1人当たりの資本設備の量が増加すること)が起こったことです。たとえば飲食店で注文を取る店員はほとんどいなくなり、スマホやタブレットでの注文・支払いが一気に普及しました。またここ数年でAIやリモート技術の進化が加速して、生産性を相当に高めました。これが三つ目の理由です。
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