関根恵子「恋の逃避行」余聞

石川 敏男 芸能リポーター
エンタメ 芸能 ライフスタイル

 1970年代の芸能スキャンダルの中でも衝撃的だったのが、女優の関根恵子さん(現・高橋惠子)の海外逃亡劇。当時、『週刊女性』の記者として騒動を取材しました。

 事の始まりは、1979年7月20日。関根さんがヒロインを務めた舞台『ドラキュラ』の公演に現れず、連絡が取れなくなった。関根さんは当時24歳。映画『高校生ブルース』で15歳にしてヌードを披露してデビューを飾り、演技派の若手として注目されていた。彼女には様々な男性との噂がありましたが、20歳頃から交際していたのが11歳上の新進作家・河村季里氏でした。

3カ月半の逃避行から帰国した2人 ©産経新聞社

 河村氏は、早稲田大学を経て世界中を放浪し、作家デビューした長髪のイケメン。2人は雑誌の対談を機に交際し、東京で同棲していたのですが、突然、飛騨高山の山村に移住。関根さんは芸能界から離れましたが、河村さんの新作が出ず、経済的に困窮したのでしょう。女優業を再開し、その復帰一作目となったのが舞台『ドラキュラ』だったんです。

 人気女優の突然の失踪に世間は騒然。捜索願も出されました。しかし、彼女は人知れず河村氏とともに出国し、バンコクのホテルに滞在していた。梨元さん(芸能レポーターの故・梨元勝さん)が現地で関根さんを直撃した映像を見て驚きました。彼女は役柄のために染めていた長い金髪をバッサリ切り落とし、ショートヘアになっていたんです。それは「日本には戻らない」という決意の表れだったのかもしれません。

若かりし頃の関根恵子 ©共同通信社

 4カ月弱に及ぶ逃避行の末に2人が帰国したのは11月8日。大阪・伊丹空港は、報道陣でごった返していました。最後にやつれた関根さんがタラップに現れた瞬間、一斉にフラッシュがたかれ、押し合いへし合いで現場は大混乱。関根さんが「逃げたりしませんので!」と叫ぶと、「前に逃げたからこんな風になってるんだ!」などと報道陣から怒号が飛んでましたね(笑)。その後の会見でも、彼女はひたすら謝るだけ。「今回の行動は正しかったのか」と問われると「私にとってはこうするしかなかった」と答え、逃亡の経緯についても口をつぐみました。

「お前ら帰れよ!」

 実は、逃避行の理由は関係者の間では察しがついていたんです。舞台で共演中の俳優に関根さんが口説かれていると感じた河村氏が嫉妬し、彼女を国外へ連れ出した……という話でした。でも、関根さんはそれを明かさなかった。しかも2人は同じ飛行機で帰国したのに、河村氏は一般客に混じって先に降り、関根さんだけが矢面に立つ格好になった。それでも河村氏をかばうところに、彼への想いの強さを感じましたね。

 その後、2人は飛騨高山で再び同棲。駅から車で30分ほどの山村にある古い一軒家で他の民家とはかなり離れていました。収入はほとんどなかっただろうし、庭の畑の野菜を食べ、関根さんの貯蓄を取り崩して生活していたんじゃないかな。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2023年7月号

genre : エンタメ 芸能 ライフスタイル