緊急座談会 暴君トランプの新帝国主義

特集 秩序破壊の世界を直視せよ

冨田 浩司 前駐米大使
坂口 安紀 アジア経済研究所 主任研究員
山下 裕貴 元陸将
峯村 健司 キヤノングローバル戦略研究所上席研究員

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米中露以外は“悲惨な末路”を辿りかねない

 ――年が明けた1月3日未明、米軍がベネズエラの首都・カラカスを急襲し、マドゥロ大統領夫妻を拘束しました。トランプ大統領は「私に国際法は必要ない」と開き直ったかのように宣言し、その後も同盟国・デンマークにグリーンランド割譲を求めるなど、西半球の支配権強化を狙う「ドンロー主義」を一方的に推し進めています。国際秩序が大きく揺らぐ中、これから世界はどこに向かうのか。今日は国際情勢に詳しい専門家のみなさんに様々な視点から議論していただきたいと思います。まず、ベネズエラの地域研究が専門の坂口さん、今回の米国による軍事介入をどう見ていますか。

 坂口 あの日、まだ正月ボケが残っていたところに、現地に住む友人からの連絡で突然スマホが鳴り始めたのでビックリしました。

 今回の軍事行動を予想していたかと聞かれれば、“イエス&ノー”です。第一次政権でベネズエラへの経済制裁を強めたトランプ氏は、二期目には軍事的威嚇を強めてきました。マドゥロは2024年の大統領選挙で敗北しながら実効支配を続けていただけで、正当な大統領ではありません。米国は以前よりマドゥロに対して麻薬取引容疑などで懸賞金をかけていましたが、トランプ政権はそれを5000万ドルと歴代最高額に引き上げました。昨年9月以降はベネズエラ沖で麻薬運搬船とみなした船舶を多数爆撃。カリブ海に潜水艦や駆逐艦、空母など大規模艦隊を展開してきました。いきなりではなく、ステップを踏んできたのです。

文藝春秋本社で行われた座談会 Ⓒ文藝春秋

 トランプ氏も、当初はマドゥロが自ら辞任することを想定していたのでしょう。ところがマドゥロ側に動きはなく、膠着状態に。あれだけの艦隊を展開しながら成果無く撤退することは、トランプ氏にとっては大失態となりますから、「プランB」に切り替えたとみています。

ギャング組織が漏らした本音

 冨田 プランBという分析には同感です。ケンタッキー州にマドゥロ氏の邸宅と同規模の模擬施設を建てるなど、米軍が緻密に準備を進めてきたのは間違いない。ただ、ルビオ国務長官らは早い段階から軍事力の行使を訴えていましたが、トランプ氏は最後までディールをしたかったはず。決断はギリギリのところで下されたのでしょう。

 これは冗談半分ですが、ワシントンではトランプ氏が最後にキレた理由は、マドゥロ氏が例の「トランプ・ダンス」をモノマネしたことだと囁かれています。ダンスが戦争の原因になったとすれば、歴史上初めてのことでしょうね。

 峯村 私も仕掛け人はルビオ氏だと見ています。彼は、ニクソン政権やフォード政権におけるキッシンジャー以来となる「国務長官兼国家安全保障担当補佐官」という要職にあり、トランプ氏に極めて強い影響力を持っています。キューバ系移民の息子で、対キューバ強硬派とも言われている。私は朝日新聞のワシントン特派員時代に何度か意見交換をしたことがありますが、上院議員時代から、キューバやベネズエラの民主化に高い関心を寄せていました。

 今回、水際立った「斬首作戦」が成功した一番の要因は、中南米を知悉するルビオ氏を“蝶番”として、普段は必ずしも良好な関係ではないCIAと国務省、軍が三位一体となったことだと考えています。

 山下 私は陸上幕僚副長や中部方面総監などを経験しましたが、今回の軍事行動は、教科書に載せてもよいような見事なオペレーションでした。実は、こうした特殊作戦は通常の正規戦より難しいんです。他国の領土に侵入し、情報をコントロールしながらサイバー攻撃や電子戦攻撃などを実施して防空システムを無力化するのが第一段階。その上で部隊を投入して大統領を拘束し、自軍兵士に損害を与えないよう撤退する。しかも麻薬取締局の捜査官が同行したことを踏まえると、表面上は軍事作戦ではなく司法活動とした。これほど難易度の高い作戦は、世界の中でも米軍以外には遂行不可能でしょう。

拘束されたマドゥロ大統領 Ⓒ時事通信社

 冨田 ベネズエラには地対空ミサイルなどロシア製の防空システムが提供されていましたが、まったくワークしませんでした。今頃、ロシアや中国は、必死になって米軍の能力を分析しているでしょう。

 坂口 興味深いのは、「コレクティーボ」という政権を支える民兵組織が「米軍には太刀打ちできない」と本音を漏らしていたことです。彼らはウーゴ・チャベス前大統領の時代から政権の汚れ仕事を担ってきました。二人組でバイクに乗って街を走り回り、拳銃で市民を威嚇し、ときには殺害も辞さない。ベネズエラ軍が反政府派と対峙する時には国軍兵士と一緒になって発砲するなど、残虐なギャング組織です。

 今回、彼らの携帯電話の会話音声がSNSで流れたのですが、「ロシア製バズーカで撃ち返したけど、たちまちドローンにやられた。あんなに速いヘリコプターは見たことがない」と話していました。聴覚を攻撃する兵器が使われたのか、「急に耳が聞こえなくなった」とも語っていました。

 山下 米軍は暴徒鎮圧のために、特定の周波数で聴覚に影響を与える兵器などを持っています。ヘリに搭載して使ったのかも知れません。

9割超が大統領拘束を支持

 坂口 ベネズエラとキューバの親密さも改めて浮き彫りになりました。今回の軍事作戦では、マドゥロ周辺や軍施設にいたキューバの軍人と内務省職員、計32人が犠牲になったと、キューバ政府が発表しました。両国は“共依存”の関係にあり、チャベス前大統領の時代から、キューバ革命の父フィデル・カストロ氏をメンターとして統治体制を学び、情報機関の訓練も受けてきた。マドゥロも若い頃にキューバで思想教育を受けています。

坂口氏 Ⓒ文藝春秋

 峯村 2016年、当時のオバマ大統領がキューバを訪問した際に現地取材したのですが、キューバ側の関係者が「ベネズエラから輸入した石油の対価として、医者と軍人、そして“政府の人”を派遣している」と語っていました。“政府の人”という意味が当時はよくわからなかったのですが、情報機関の人材のことを指していたわけですね。ベネズエラはキューバの諜報能力に頼っていた。ただ今回、みすみす拘束を許したわけですから、キューバの能力も高くはなかったわけです。

 坂口 今回の作戦では、キューバの軍や諜報部はCIAに敗北を喫したといえます。

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source : 文藝春秋 2026年3月号

genre : ニュース 政治 国際