地政学的大転換が起きる2026年

第9回

マット・ポッティンジャー 元米大統領副補佐官・ガルノーグローバル共同創業者CEO

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激変する国際情勢と世界経済を、第一次トランプ政権の大統領副補佐官・ポッティンジャー氏が徹底分析

 

■連載 投資家のためのディープな地経学

第1回 「トランプ関税」が不可避だった理由

第2回 「デカップリング」をめぐる米中の駆け引き

第3回 「習近平失脚」デマはなぜ流れたか

第4回 トランプ外交の本質はどこにあるか?

第5回 同盟を強化する中国にトランプは対抗できるか
第6回 「サナエとドナルド」の連携で中国の影響力を打破せよ
第7回 “要塞化”する中国
第8回 
トランプ政権「国家安全保障戦略」の危うさ
第9回 ←今回はこちら

 2026年の年明け数週間は、出来事があまりにも多く、私は地政学におけるもう一つの転換点である「1989年」を思い起こさずにはいられません。中国では民主化を求める人々が天安門広場を埋め尽くし、ドイツではベルリンの壁が打ち壊され、さらにソ連崩壊の種が芽吹き、やがて花開き始めた年でした。

 1989年と今年の決定的な違いは、想定され得る結末の幅が、当時とは比べものにならないほど大きい点にあります。ベネズエラ、キューバ、イランといった国々では、権威主義体制が崩壊する可能性がある一方で、ドナルド・トランプ大統領による同盟国への高圧的な対応をきっかけに、カナダやイギリス、さらには他の民主主義国までもが北京に接近し、民主主義陣営そのものが分断され、弱体化する恐れもあります。

 今年とは対照的に、1989年は滑り出しは比較的穏やかでした。ジョージ・H・W・ブッシュがロナルド・レーガンの後を継いで大統領に就任し、ワシントンとモスクワの関係は雪解けに向かっていました。ソ連はアフガニスタンから最後の部隊を撤退させ、その年は戦略的安定のもとで推移するかに見えました。

 しかし、歴史はそこから急転します。ポーランドでは、民主化を掲げる「連帯」運動が、部分的に自由化された歴史的選挙で大きく前進しました。中国では体制への抗議運動が全国に広がるも、最終的には天安門事件として人民解放軍による武力鎮圧に至ります。11月には、ベルリンの壁が崩壊し、東欧の共産主義政権が相次いで倒れ、冷戦の終結が決定づけられました。

ポッティンジャー氏 ©文藝春秋

 2026年は、まだ始まったばかりです。しかし、世界の動向に大きな影響を与えるトランプ氏や習近平氏など指導者たちの決断が、今後、数十年にわたる民主主義と権威主義の趨勢を左右することになるでしょう。今月のコラムでは、地政学の行方を決定づけるいくつかの重要な分岐点について考察していきます。

ベネズエラ

 1月初旬に行われた、ベネズエラの独裁者ニコラス・マドゥロ氏を拘束した米国の特殊作戦は、「体制転換(レジーム・チェンジ)」よりも「指導者の交代(リーダー・チェンジ)」の色合いが強いものでした。トランプ氏は即座にマドゥロ政権のナンバー2であるデルシー・ロドリゲス氏を支持し、マドゥロ氏の側近や治安機構がトランプ氏の意向に従うことを条件に引き続きベネズエラを統治できる権限を与えました。

 この対応は、私にとって意外なものではありませんでした。第一次政権時代に彼の下で働いていた頃、トランプ氏は、2003年の米国によるイラク侵攻が重大な過ちだったと、幾度となく私に語りました。とりわけ彼が愚策とみなしていたのは、侵攻後に何十万人ものイラク兵を解雇し、サダム・フセインの率いたバース党の幹部でない者まで含めて、数万人の政府職員を粛清したことです。トランプ氏は今年1月中旬にも、この長年の持論を繰り返し、2003年に米国が実施した「脱バース化」政策が、イラクとシリアにおいて多大な犠牲を伴う反乱を引き起こしたテロ組織ISISの台頭を助長したと指摘しています。

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source : 文藝春秋 2026年3月号

genre : ニュース 政治 国際