「やってられない!」久米宏が吠えた日

早河 洋 テレビ朝日ホールディングス代表取締役会長
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テレビ史に残る名司会者、今明かされる「画面外の奮闘」

「こんなんじゃやってられない!」

 18年続いた「ニュースステーション」の日々を思い出すと、真っ先に蘇るのが、放送後の反省会。久米宏さんの声が響き渡っていたあの日のことです。

 1985年10月7日、22時にスタートしたこの番組最初の特集は「鮭」を切り口にした環境問題でした。河川の汚染が進み、放流した鮭がほとんど戻ってこない。豊かな河川にするにはどうすればいいか……と、全国を中継で結び、家庭の食卓から地球規模の環境問題を考えようという構成作家のアイデアです。

 ところが、本番で機器が故障し、現場の映像が出ない。札幌のアナウンサーの食事風景や新潟の割烹鮭料理、福岡の鮭神社とどうにか繋いだものの、肝心のVTRがないのであまりに締まらない中継が続きました。

 その日のエンディングは、チェコスロバキアの大統領からの新番組スタートのお祝いの言葉。ソ連や東欧の番組やニュース素材を取り扱っていたインタービジョンの協力でした。ワールドワイドなニュース番組を打ち出そうとしたものの、ズレにズレた取り合わせで、いま思いだしても我ながら苦笑いしてしまいます(笑)。

 当然、視聴率は9%ほどと低迷。プライムタイムなら最低でも12~13%はなければといわれた時代にその数字が続きました。人気番組を数多く抱えて「出演番組の合計視聴率100%超の男」とも言われていた久米さんは当時、全生放送番組を降板してこの番組に懸けていましたから、落胆するのも当然でした。4795回放送した「ニュースステーション」と久米宏さんの日々は、こんな夜から始まったのです。

私も「やってられない!」

 1月1日に亡くなった久米宏さん。クイズ番組「ぴったし カン・カン」、音楽番組「ザ・ベストテン」等、様々なジャンルの人気番組の司会者として知られた久米さんが、自伝で「最も楽しいテレビ番組だった」と語ったのが、「ニュースステーション」(テレビ朝日系)だ。

 現在放送されている「報道ステーション」の前身で、時に視聴率30%を突破。平均でも14%超を記録したこの番組は、「日本のニュース番組を変えた」とも称されている。初代のチーフ・プロデューサーで現在はテレビ朝日会長を務める早河洋氏が、久米さんとの日々を回顧した。

 実のところ「やってられない」のは私も同じでした。

 久米さんの所属事務所であるオフィス・トゥー・ワン(以下、OTO)という外部の制作会社をテレビ朝日の報道番組に迎え入れ、共同で作る前代未聞のニュース番組の構想が始動したのは、1985年のはじめのこと。久米さんをキャスターに据えたこのパッケージはOTOからの持ち込み企画で、はじめから広告代理店の電通も巻き込んだ座組になっていました。というのも、当時の22時という時間はドラマなど、エンターテイメント番組が中心の激戦区で、そこで視聴率の読めないニュース番組を放送しても、スポンサーがつくのか不透明な状況だったからです。電通が放送枠の広告を買い切る形でスタートしたのも、例のない船出でした。

久米宏氏 Ⓒ文藝春秋

 目指したのは、新しいニュース番組。それまでの王道はNHKの「ニュースセンター9時」に代表される、よく言えば謹厳実直できっちりした、悪く言えば官報的で情報発信が一方通行のスタイルでした。そこで、もっと視聴者目線で、中学生でもわかるような親しみやすい番組を目指し、セットからこだわりました。寛ぎのある堅苦しくない雰囲気を出そうと、奥行きを持たせた2階建てのセットを造り、お茶を飲む場所まで設けました。当然、スタジオの準備だけで億単位の費用がかかり、OTOの人件費まで乗ってくる。

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source : 文藝春秋 2026年3月号

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