歌舞伎町ビル火災は、2001年(平成13年)9月1日未明、東京都新宿区歌舞伎町の雑居ビル「明星56ビル」で起きた。3階の麻雀ゲーム店「一休」、4階の風俗店「スーパールーズ」両店の従業員、客、44名が犠牲になり、平成史上最悪の火災事故になった。出火原因は未だはっきりとせず、幾つもの噂が流れた。
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平成史上最悪の火災事故
「空から人が降ってきた」
下にいた通行人が、思わず自殺志願者だと勘違いした。
歌舞伎町一番街の雑居ビル、明星56ビル3階にある麻雀ゲーム店「一休」の窓から男が道路に落下した。黒い煙に巻かれ、逃げ場を見失った従業員が必死の思いで窓から飛び降りたのだ。
直後、窓から黒煙と炎がたちこめ、あたりはパニックに陥った。
いったい何人の客がいたのか不明のまま、消火・救出活動がおこなわれ、時間がたつにつれて犠牲者の数が増えると、近年まれに見る惨劇だと人々が気づきだした。
“空から降ってきた”「一休」男性従業員T(35)の供述調書が、出火時の模様をリアルに記録している。
〈私から見て、13番ゲーム機の左側通路上の、ゲーム機より少し高い位置に幅2、3センチの黒い煙の筋が1、2本動いて、店の奥に向かっているのを見つけました〉
外からの黒煙が出入り口ドアの隙間から侵入してくるのに不安を感じたTがドアを開けた。すると――
〈エレベーター前のフロアーは、黒い煙で覆われ、その煙がまるで生き物のように動いているのが目に入りました。
そして、私がドアを開けた瞬間、その煙が開放した出入口の上の方から店内に向かって入ってきました〉
黒い煙が天井を這うようにして一気に店内に侵入してきた。
火災のあった明星56ビル
「出口はないのか」
従業員が「火事だー! 水!」と叫び、バケツに水を汲み消火活動をはじめた。
18台あった麻雀ゲーム機はほぼ満席。一説には誤作動が多く電源が切られていたという火災報知器も作動せず、ゲームに熱中していた客は火災に気付くのが遅れた。
同じく「一休」の男性従業員F(21)の供述調書。
〈お客さんは、皆
出口はないのか
逃げられないのか
どうなっているんだ
などと言ったり、苦しそうにせき込んだりしていました〉
煙を避けようと厨房に逃げ込んだFはそこに窓があることに気づく。
〈私は、1回、2回と思いっきり拳骨でガラスを叩いたのですが、割れませんでした。
それで、私は自分の手がどうなってもいいからこのガラスを割ってやれと思い、3回目は本当に無我夢中で力任せにガラスを拳骨で殴りました。
すると、窓ガラスが割れ、外に顔を出すことができました〉
〈その頃には(略)厨房の中も様子がよくわからないくらい煙がたくさん入ってきていて、自分も(略)煙を吸って気持ち悪くなっていました〉
窓ガラスを割ることができたFは、隣のビルに飛び移り、その後、消防士によって救出された。
男性従業員H(25)の供述調書によれば、店内に充満した黒煙で視界を奪われながら、窓を開けようとしたが、窓は塞がっており死を意識したという。
〈なぜか私の頭の中には
子供の自分が小学校のときの友達と遊んでいる場面
子供の自分がおばあちゃんと一緒にいる場面
大きくなった自分が高校の友達と会っている場面
などが、一場面一場面、写真のように浮かんでは消えていきました〉
人は死を予感した瞬間、いままで生きてきたシーンが頭の中を駆け巡ると言われるが、本当のようだ。
Hは意識を失いかけたが、Fが窓ガラスを割る音で意識が戻り、黒煙の中、手探りで割れた窓を探し出して飛び降り、九死に一生を得た。
ビルには階段がひとつしかなかったが、階段付近で出火した上、ロッカーなどが置かれていて逃げることができなかった。3階、4階の窓は、普段から施錠されたり、内装で隠れたりしていたという。そして、防火扉は開いたままだったので階段が煙突のようになり、黒煙は4階へと上っていった。犠牲者の多くが煙に巻かれて逃げ場を見失い、一酸化炭素中毒で命を落としたのだ。あらためて煙の恐さを思い知らされる。
結局、ビルの3階、4階にいた47人のうち生き残ったのは「一休」の従業員3人だけだった。
はしご車での救出活動
行方の知れない男
この事件の発生当初から囁かれていた噂が「4人目の生存者」だ。火災から逃れたが、そのまま現場を去った男がいたというもの。実は従業員の供述調書ではその存在がしっかりと証言されていた。
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