いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。
1976年に発覚したロッキード事件と1985年に発生した日本航空ジャンボ機の墜落事故は、日本の戦後史に残る出来事として、同時代を生きた日本人ほぼ全員の脳裏に刻まれている。
前者では、米ロッキード社の首脳が、日本の首相への贈賄の犯人だと断定された。後者では、米ボーイング社の社員がジャンボ機の枢要部の修理でミスを犯したと疑われた。
この2つの事件には共通点がある。ひとつは、米国の軍産複合体の中核ともいえる航空機メーカーがその主人公だったこと。もうひとつは、米国との関係が真相解明の障害となり、謎が残ったままで、今“陰謀論”が多くの人たちになかば信じられていることだ。
日本政府の高官や右翼のフィクサーに総額30億円もの裏金がロ社から流れたとされるロッキード事件は1976年2月4日、アメリカ議会上院外交委員会の多国籍企業小委員会で疑惑を暴露され、その年の7月27日、前総理大臣の田中角栄がロ社から5億円を受領したとして東京地検に逮捕された。
この摘発の経緯をめぐって、米政府の策略によって事件を仕掛けられた、という陰謀論が定説のように信じられている。すなわち、田中は、中国と国交を結んだり、石油やウランを米国系企業ではない先から調達する独自の資源獲得外交を進めたりしたことで、アメリカの“虎の尾”を踏んでしまったという物語だ。

たしかに、陰謀論につながりやすい“謎”は残っている。70年代、ロ社は、商用の旅客機トライスターを全日空に、そして対潜哨戒機P3Cを海上自衛隊に売り込もうと画策した。その工作の一環で、中曽根康弘ら自民党政治家に影響力を持つ右翼のフィクサー、児玉誉士夫(よしお)に20億円余を渡し、その他に全日空や商社の丸紅に8億円弱を流した。このうち収賄事件として東京地検が摘発したのは、トライスター売り込みへの支援を求める趣旨で丸紅を介して田中に渡った5億円と、全日空への便宜供与の謝礼の趣旨で2人の自民党政治家に渡った700万円だった。児玉に流れたうちの大部分の最終的な行方を解明できず、その他の政治家に捜査のメスが届くことはなかった。
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