角野隼斗「開成、東大からカーネギーホールまで」

日本の顔 インタビュー

角野 隼斗 ピアニスト
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3歳の頃、2の累乗をずっと書いていました

※角野隼斗さんが登場したグラビア「日本の顔」もぜひご覧ください

「世界屈指の音楽の殿堂」と呼ばれるニューヨークのカーネギーホールで、昨年11月に初めてソロリサイタルを開きました。

 世界各国の劇場で演奏してきましたが、カーネギーホールはやはり特別でした。ステージが広くて、ただピアノがポツンと置いてあるだけ。存在感が際立ちます。背筋がピンと伸びますし、自分が堂々としていなければ、という気持ちにさせられました。

 普段は客席が横に広がった舞台が多いのですが、カーネギーホールはバルコニーのような席が5階も積み重なって、天井ギリギリまでお客さまが連なっています。観客の収容人数も約2800人ですから、東京のサントリーホールやオペラシティと比べても格段に多い。そんな大空間でPA(拡声装置)を使わないピアノの生音を、天井の隅々まで届けなければいけません。演奏を終えたときに聞こえてきた万雷の拍手とスタンディングオベーションは、一生忘れません。

ニューヨークのカーネギーホール Ⓒ時事通信社

 帰国した翌週に横浜で行われたコンサートでは、1万8546枚ものチケットが売れ、「屋内のソロピアノリサイタルで販売されたチケットの最多枚数」として、ギネス世界記録に認定されました。これには自分でもさすがに驚きました。

 いまは拠点をニューヨークへ移し、アメリカ、日本、ヨーロッパを、1年で3分の1ずつ巡りながら活動をしています。今年はアメリカやカナダと、ドイツ、オランダ、オーストリアを行き来しています。

東京大学か、東京藝術大学か

 講師をしていた母の指導のもと、ピアノは3歳から始めました。「ゲーム感覚で、やる気を上手に引き出す教え方だったのよ」と、母は言っていますが(笑)、練習が嫌なことはたまにありました。

 でも、辞めようと考えたことは一度もありませんでした。僕の一番古い記憶は、ピアノを始めた頃のこと。和室で数字を紙に書いていて、母が遠くから何かを話しかけている。数字そのものを書くのも楽しくて、2の累乗をずっと書いていました。2、4、8、16、32、64、128……。算数も大好きでした。

 小学校高学年から、ゲームセンターの「音ゲー」にはまりました。特に「太鼓の達人」は高得点になるとランキングに名前を登録できるのです。打ち込めるのがひらがな4文字までだったので、「かてぃん」という名前にしました。意味は深く考えず、語感やキャラクター名のような感じから思い浮かびました。

 開成中学校に入ってからはニコニコ動画やYouTubeに興味を持ち、演奏動画を投稿するように。その時、使い始めた名前が「Cateen」。子どもがインターネットに本名を公表するのは危険なので作ったハンドルネームです。この名前で僕のことを知ったかたもいらっしゃるかもしれません。

 その頃は、クラシック以外の音楽も聴いたり演奏したりしていました。BPM(1分間あたりの拍数)が速ければ速い曲ほど好きでした。友達とバンドをやりたいねと話して始めたのが、ギター2人、ベース、ドラム、キーボード、ボーカルの6人組で激しめのハードロック。キーボードの担当は別にいたので僕はドラムだったのですが、イントロだけピアノを弾いてドラムへ移るといったパフォーマンスもしていました。

 ジャズを始めたのも同じ頃です。地元の勝田台文化センター(千葉県八千代市)で「ラプソディー・イン・ブルー」のピアノソロバージョンを初めて弾きましたが、当時はクラシックの曲だと思っていました。

 大学進学は、ひとつの岐路になりました。東京大学に行くか、東京藝術大学に行くか。でも、僕はまだピアノで食べていけるとは思っていませんでした。親戚に宇宙飛行士の山崎直子さんがいて宇宙にも興味があったし、親からは「音楽と数学を迷っているなら東大にしたら?」というアドバイスもありました。藝大でなくてもピアノは練習できると考えて東大を選び、工学部の計数工学科数理情報工学コースへ進みました。

企業への就職も考えた

 東大ではクラシックピアノを弾くサークルと、バンドのサークルに入りましたが、時間的にはバンドサークルの比重が高かったですね。ピアノは1人で完結するのでリハーサルはさほどありませんが、バンドは全員が揃っての練習が必須だからです。文化祭で半年に1回演奏し、合宿も年に2回あって楽しかった。3年生の時には、バンドのサークルを母体に6人組のシティソウルバンド「Penthouse」を結成し、2021年にメジャーデビュー。今年3月には武道館で単独ライブを行いました。

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source : 文藝春秋 2026年6月号

genre : エンタメ 音楽 ライフスタイル