最新研究「歩く」は認知症、血管疾患を防ぐ

特集 「歩く」が人生を変える

梶山 寿子 ジャーナリスト

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「7000歩歩いて認知症リスク38%低下」はなぜなのか

「歩く」ことが健康にいい影響を及ぼすことは、近年のさまざまな研究によってエビデンスが揃ってきている。

 たとえば、2025年、シドニー大学の研究者らが学術誌『The Lancet Public Health』で発表した最新の調査結果によれば、「1日に7000歩歩く人は2000歩しか歩かない人と比べて、心血管疾患による死亡リスクが47%低下、認知症の発症リスクが38%低下など、主要な病気のリスクが大幅に下がる」という。

 高齢者の大きな関心事である認知症のリスクが「38%低下」と言われると、「すぐにでもウォーキングを始めよう」と思う人もいるのではないか。

 歩くことと認知症のリスクが下がることの医学的な因果関係は、実際のところ、どの程度わかっているのだろうか。東京大学大学院、新領域創成科学研究科で老化生命科学を研究する久恒辰博准教授に聞いた。

「記憶力や認知機能の低下に代表される脳の老化は、生活習慣の改善によって、ある程度抑えられることがわかってきました。歩くことが脳の老化予防につながることは間違いない。ただし、認知機能の向上に運動がどのように関与しているのか、その詳しい仕組みの解明はこれからです」

久恒准教授(本人提供)

 とはいえ、今や、歩くこと(運動)は認知症予防対策の定番メニュー。久恒研究室でも、認知症の7割近くを占めるアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)の予防につながる生活習慣として、ウォーキングなどの運動習慣や食事、睡眠、社会交流に着目し、研究を進めている。

 久恒准教授の専門は脳の海馬の研究である。記憶や学習を司る海馬は認知機能や感情に関係しているが、その海馬では、高齢になっても新しいニューロン(神経細胞)が生まれているという。

「年をとると脳の細胞は減る一方で、増えたり再生したりすることはないと、かつては考えられていました。しかし、大人になっても脳は成長し、修復する能力を保っているのです。今年2月に『Nature』で発表された研究論文にも、平均的な高齢者よりも認知機能が高く保たれている“スーパーシニア”の脳には、新生ニューロンの数が普通の高齢者の約2倍もあったことが報告されています」

 つまり、高齢になっても新生ニューロンが次々と生まれる脳は認知症になりにくいということ。

 そして、新しいニューロンを増やす方法のひとつが「運動」だということも、マウスを使った動物実験では明らかになっているという。

「7年遅らせることができる」

 では、どのくらい運動すれば、認知症を防げるのだろう。

「2006年にアメリカの国立老化研究所が65歳以上の人を対象に行った疫学調査では、15分以上の運動を週に3回以上行うと、アルツハイマー病のリスクが35〜40%減ったそうです。そこで私たちも『15分の運動を週に3回』を、脳の老化を防ぐ生活習慣として勧めています」

 気になる「歩数」についてはどうか。

「先のシドニー大学の研究は、7000歩で健康効果がほぼ最大化されると分析している。同様に最近の研究では、高齢者であれば1万歩も歩く必要はなく、最低ラインで日に3000歩、6000歩か7000歩くらいで十分だとするものが多いようです」

(写真はイメージ) ©graphica/イメージマート

 2025年11月に『Nature Medicine』で発表された最新研究も、「1日に5000〜7500歩歩くと認知機能の低下を平均約7年、3000〜5000歩でも約3年遅らせることができる」としている。

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source : 文藝春秋 2026年6月号

genre : ライフ ライフスタイル ヘルス