散歩は哲学を生む

特集 「歩く」が人生を変える

島田 雅彦 作家
國分 功一郎 哲学者

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歩くことで進化してきたのが人間。移動は根源的な欲求だ

『散歩哲学』(ハヤカワ新書)の著書がある島田雅彦さんと、現代社会に鋭い視線を向ける哲学者、國分功一郎さん。かねて親交のあるふたりが「散歩の哲学」を語り合う。「歩くこと」は、「考えること」に何をもたらすのだろうか?

 國分 思えば、散歩と哲学には深い関係があります。アリストテレスは、逍遥学派と呼ばれるように、アテネのリュケイオンという学校で散歩しながら授業を行いました。歩きながら話すと眠くならないし、頭も活性化する。そのことをよくわかっていたんですね。この対談も歩きながらやったらどうかと、さきほど島田さんにご提案いただいたんですが、あいにく僕が花粉症で(笑)。

アリストテレス(右)とプラトン。古代ギリシャの哲学者たちは歩きながら議論をした ⒸUIG/時事通信フォト

 島田 散歩に向かない季節ですね。

 私は、人を人たらしめているのは二足歩行なのではないか、と思っていますが、最近、改めてそう実感する光景に出会いました。作家の鈴木涼美さんの子どもが歩き始めたと聞いて、私はフェイクグランパを自称しているので会いに行きまして……。で、一緒に散歩をしたんです。歩けるようになったばかりの子どもは見ていて飽きない。

 國分 ヨタヨタと歩きますよね。

二足歩行と心の関係

 島田 それでいて、うれしそうなんですよ。移動の自由を獲得して、あらゆるものに好奇心を抱いてすり寄っていく。子どもは歩くとほぼ同時に言葉も話しますよね。それを見ていると、人類進化の長い歴史を子どもは繰り返しているんだな、と思うんです。

 二足歩行になった人類は、移動距離が爆発的に延びて、アフリカから地球全体に拡散していった。さらに両手が空いて手持ち無沙汰になり、手作業を始める。それで大脳が刺激を受けて、一層進化していった。歩くことには、人間の根本的な進化の原点があると思います。

 國分 精神分析的な人間観においても二足歩行は重要です。

 人間がここまで複雑な心を持ったのは二足歩行と関係が深い。直立し歩行するようになったことで、頭が大きく重くなっていった。しかし、母体にいるうちにあまり頭が大きくなると出産に支障をきたすので、おのずと早産になる。たとえばシカは母体から出てすぐに走り始めますが、人間にはできない。生物として不完全な状態で生まれてくるんです。

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source : 文藝春秋 2026年6月号

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