ご両親は共産党ですか

復活拡大版27組 オヤジ編

斎藤 幸平 東京大学大学院准教授

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親子のかたちは時代を映す。昭和59年から40年続いた長寿連載、一号限りの豪華リバイバル

 よく、こう聞かれる。「今どき、マルクスなんて、ご両親は共産党員ですか」、と。だが、ちょっと待ってほしい。マルクスと共産党をイコールでつなげないでくれ。別にマルクス主義者であっても、共産党に属していない人はたくさんいる。そしてなにより、親が共産党でないと、今どきマルクス主義者にはならないという想定が、馬鹿げている。むしろ、現在の惨状を見れば、これだけ格差を広げ、地球を破壊する資本主義に疑問をもつのが普通じゃないかと私は思う。

 そういうわけで、マルクスと実家は何の関係もない。なんなら、私の思想形成は、親父から何の影響も受けていない。このエッセイを書くことになって、心に染みるストーリーで読者を唸らせようと必死に脳みそを絞ってみた。だが、正直なところ、ほとんど何も思いつかないのである。

斎藤幸平氏 Ⓒ文藝春秋

 私が小さい頃、現在83歳の父は、働き盛り、というか、毎晩飲み歩いていた。夕ご飯を一緒に食べた記憶もあまりない。むしろ、夕食後にTBS「うたばん」やキムタクのドラマを見ていると、あるいは、もう少し大きくなってから、中学受験の勉強をしていると、酔っ払った父親がタクシーで帰ってきて、やたら大きい声で陽気に話しかけてくるのを鬱陶しく思ったのを覚えている。父親は聖路加国際病院の人事部で働いていて、日野原重明先生をやたら尊敬して、その話ばかりしていた。でも、10代の若者に100歳近い爺さんの話なんてしたって、興味が湧くはずもないのだ。逆に、勉強を教わったり、休みの日にどこかに行ったとか、そういう思い出もほとんどない……。

 中学に入って、今は衆議院議員の中村勇太(はやと)君と一緒にパンクロックを聴くようになり、バンドを始めた。そして、アメリカに憧れて、高校を卒業して、大学で奨学金をもらって留学した。大学でマルクスに出会い、ちょうど今年が私とマルクスの磁器婚式(20周年)である。一方、私と父親の関係は? 取り持ってくれるのは、子どもたちかもしれない。

 うちには、今、8歳の息子と6歳の娘がいる。正直、これからの日本が心配になる。普段は、日本には脱成長が必要だ、と言いながら、子どもたちの教育をどうすればいいかと思い悩む日々。習い事はさせるべきか、そろそろ塾に行かせるべきか、そんなことばかり妻と話しあってしまう。

 だが、そんな時にふと反省することがある。自分の親は、私が何をするかについて、いちいちレールを敷くようなことはしなかったではないか、と。どの中学に行くか、アメリカに留学するか、そうした一人息子の選択について――私が親の意見をそもそもまったく聞かなかったというのもあるが――、干渉するということはなかった。

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source : 文藝春秋 2026年1月号

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