ニデック永守代表の落日

指示は「執念を見せろ!」、不正は1000億円を超えていた 

井上 久男 ジャーナリスト

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「永守さんに出て行ってもらわなければ、再生はない」

「関を連れて来た頃から、この会社はおかしくなった」

 2025年10月29日、京都市に本社を構えるモーター大手のニデック(旧日本電産)の創業者にして、グローバルグループ代表の永守重信氏(81)が、大勢の社員を前に言い放った。「カリスマ経営者」の彼が、本社地下一階の講堂で開かれる全体朝礼に姿を見せたのは、久しぶりのことだった。

永守代表 Ⓒ時事通信社

 永守氏が名指しした「関」とは、22年9月、「業績悪化」を理由に辞任した元社長兼CEO(最高経営責任者)の関潤氏のこと。関氏は日産自動車でナンバー3の副COO(最高執行責任者)を務め、20年にニデックに移籍。21年に社長兼CEOに就任したが、翌年COOに降格された。

 詳しくは後述するが、永守氏と関氏との間では、経営方針を巡る対立があったとされ、それが辞任の一因と見られている。

 なぜ永守氏は久しぶりに朝礼に出てきたのか。

 その前日、ニデックは1973年の創業以来、最大の危機的局面を迎えていた。東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)が、ニデック株を「特別注意銘柄」に指定したのだ。これは、有価証券報告書に虚偽を記載したり、内部統制に問題が生じたりした企業について、投資家に注意を喚起し、取引所が監視をする制度だ。以前は「特設注意市場銘柄」と呼ばれ、粉飾決算問題で経営が揺らいだオリンパスや東芝も指定されている。

 発表を受けてニデック株はストップ安となった。東証に改善計画を提出して審査が通らなければ、上場廃止となる可能性もある。

 ニデックでは25年6月以降、不適切な会計処理が疑われる事例が複数発覚している。中には経営陣が関与、または認識の下で、資産の減損処理の時期を恣意的に決めた可能性のある事例もあった。事実ならば悪質性が高い。

 9月26日には、ニデックの会計監査を担当するPwCジャパン有限責任監査法人が、25年3月期有価証券報告書(有報)の連結財務諸表に対し、「意見不表明」とすると発表した。これは、十分な監査証拠が入手できず、有報の適正性を評価できない場合などの対応で、有報にお墨付きを与えないことを意味する。極めて異例の事態と言ってよい。

「永守さんの結果責任は大きい」

 冒頭の朝礼で、永守氏の責任転嫁をするような言葉を聞いた中堅社員は、反感すら覚えたという。

「この事態に追い込まれたことについて、永守さんが背負うべき結果責任は大きい。永守さんに会社から出て行ってもらわなければ、この会社の再生はないと思う」

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source : 文藝春秋 2026年1月号

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