ユニクロ、ソフトバンク、日本電産……日本を代表するこれら3つの企業には「共通点」があります。それは、いずれもカリスマ創業者が一代で築き上げた会社であり、さらにいずれも外部から招いた経営者を二代目に据えながら、結局、創業者がトップに返り咲いているという点です。カリスマ的なワンマン経営者はなぜ後継者選びに苦慮するのか。
私は、一般社団法人ベンチャー型事業承継代表理事をつとめ、中小企業で同族経営の事業承継をサポートしています。専門は主にファミリービジネスの事業承継で、いずれ親の事業を継ぐ「アトツギ」たちが新規事業開発に打ち込める環境づくりをお手伝いしています。その多くは中小・零細企業であり、ユニクロや日本電産のような大企業ではありませんが、会社の規模に関わらず、事業承継というのは難しいものです。
なぜなら会社経営とは、つまるところ感情を持っている人間の営みであるからです。どんな立派な経営者でも、後継者に対する目は厳しくなるし、ときには嫉妬も混じります。
私はこれまでに数百社以上の事業承継の事例を見てきましたが、うまくいかない事業承継には、パターンがあります。代表的なのは、父親が一代で会社を築き上げたワンマン創業者で、アトツギが二代目というパターンで、これは本当に苦労する。やっぱり会社の歴史の中で初めての事業承継ということで、過去の経験の蓄積がないのが大きいんですね。
興味深いのは、先代の創業者と二代目のアトツギでは「リーダーシップのあり方」についての考え方がまったく違うんです。先代にとってリーダーシップのお手本はあくまで自分であり、「息子は社員の意見ばかり聞き、強さがない。まだまだ頼りない」。一方、二代目の方は「親父がトップダウンで全部決めちゃうから、社員がつまらなそうだ。社員の声を聞かないと」と、なるわけです。
ですから例えば二代目が将来を見据えて新規事業を立ち上げようとしても、既存事業で出た利益を「回してなるものか」とばかりに先代が猛反対することが多い。仕方なく二代目が個人の貯金を取り崩して、試作品を作ったり、EC通販を立ち上げたりというケースもよくあります。
会社は誰のものか
そういうワンマン創業者とこれまでに何度も事業承継をしてきた老舗の会社の経営者を比較すると、明らかに異なる点があります。それは「時間軸の捉え方」です。ワンマン創業者の場合、会社の歴史はすなわち自分の歴史であり、常に自分中心の時間軸で物事を考える傾向が強い。対して老舗の経営者の時間軸というのは、過去から未来にまで繋がる長い歴史の中にあり、「自分はたまたま、このタイミングで会社を預かっている」という感覚に近い。会社経営に対するこういう時間感覚は実は日本独特のものだと思います。
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