公共事業は「国土の均衡ある発展」に代わる新たな哲学を

令和も続く『日本列島改造論』の亡霊

広野 真嗣 ノンフィクション作家
ニュース 社会 政治 経済

 5年間で15兆円を投じた「国土強靱化5か年計画」が2025年度で終了する。最近の豪雨災害などを見るにつけ後継計画が浮上しそうだが、「二階道路」や「北陸新幹線」を題材に検証すると、公共事業は“曲がり角”に差し掛かっていると考えざるをえないと思う。

 国土交通省は、建設中の鉄道や道路の区間ごとに、その時点で見積もっている事業費や費用対効果(B/C)をウェブサイト上で公表している。

 のっけから取っ付きにくい横文字で申し訳ないが、「B/C」とは、「ベネフィット(便益)」を「コスト(費用)」で割ることで出す指標だ。建設費が分母、利用者が移動時間を短くできたり、経費を節約できたりする効果を金銭価値で表したものが分子になる。いわば“公共事業のコスパ指標”で、この数値が「1」を上回るかどうかは、事業費を査定する財務省も必ずチェックするポイントだ。

 このB/Cに異変を感じたのは、2024年度で412ある国道事業について、B/Cが低い順に並べた時のこと。おかしな事業がないかと見始めたら、1を割り込む事業が1割強の59もある。着手段階では1を超えていたはずで、その後数値が1を割り、しかし「事業は続ける」となった例が相次いだことになる。

 そこで、元の412の国道事業それぞれの10年分の数値を遡った。すると、全体の6割の道路で、工事初期よりB/Cの値が、1を割らないまでも悪化していて現在に至ることがわかってきた。

 見積りが甘かったのだ。提唱者でもある二階俊博・元自民党幹事長の名を取って「二階道路」とも呼ばれる近畿自動車道紀勢線のケースを見てみよう。紀伊半島を1周ぐるりと周回する高速道路だ。

二階俊博氏 ©文藝春秋

 その一部として工事が進む「一般国道42号 すさみ串本道路」の当初の建設費は710億円。これまで3度にわたって合計1160億円も増額し、現在では1870億円となっている。その結果、分母が2倍以上に増え、1.2あったB/Cは、0.6にまで落ち込んでいるのだ。

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source : ノンフィクション出版 2025年の論点

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