日本を震撼させた平成の凶悪事件。事件後に流れた歳月は犯人・遺族の心境にどのような変化をもたらすのか。ノンフィクションライター、小野一光が現場を歩く。今回は「平成15年 福岡一家4人殺人事件」篇の第4回(全4回。第1回、第2回、第3回から読む)。
〈この私が接している内の一人に、中国人であるX君がいる。彼は外国人のせいか、日本語は十分に分るのに他の収容者はもちろん、このフロアーの担当とでさえもめったに話さない。たとえ用があったとしても自分から話掛けたりせずに担当から声を掛けてくるのを黙ってジッと待っていて、彼は誠に心を閉じてしまっている様に見て取れるのである〉
03年6月20日に福岡県福岡市東区で、衣料品販売業を営む松本真二郎さん(享年41)一家4人が、中国人留学生3人に自宅で殺害、死体を遺棄された「福岡一家4人殺人事件」。
冒頭で取り上げたのは、福岡拘置所にいたQという人物から私に出された手紙である。この手紙のなかでX(*原文はXの位置にある文字を塗りつぶしている)とあるのは、「福岡一家4人殺人事件」の被告人(当時)である魏巍(犯行時23)のこと。Qからの手紙のなかに、彼の拘置所での様子が偶然記されていたのだ。なお、魏の死刑は11年11月に確定。19年12月に執行されている。以下、手紙は続く。
〈彼は年が近くて同じ罪名の為か、なぜか私とだけはけっこうアイサツ等を交したり、良い笑顔を見せてくれる。私も最初は彼を見ていて声を掛け難いものがあったのであるが、たまたま風呂の時に一言「こんにちは」と声を掛けたのが、私が彼と接する様になる始まりであった。いつもは、他の者が声を掛けても、彼は無視して逃げる様にして部屋へ帰って行くのだが、私の時は運良く「コンニチハ」と一声返してくれ、とても良い笑顔をニッコリと見せてくれた。そこで私が「頑張ってネ」と言うと彼は、「ハイ、アリガトウ」と言って、また笑顔を見せて風呂へと入って行ったのである〉
さらにQからの手紙は、次のように綴られていた。
〈それ以来、私は彼を気に掛ける様になり、彼の部屋の前を通る時(運動へ行く時、風呂場へ行く時、医務へ行く時、等々)には、彼を見て顔をあわせ、一瞬だけのコミュニケーションの笑顔を互いに交すようになっていった。まあ、それは今も続いているのだが、彼は部屋ではいつも大体、凄く美しい正座の姿勢で机へ向かって座り、背筋をピシッと伸ばして読書や手紙書きをしている。
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