老獪さを武器に権勢を振るった二人が、薄っぺらい現在の永田町をぶった切る!
(左から)輿石氏、二階氏、篠原氏
心と心が触れ合う昔ながらの政治家
――かつて永田町には、「義理・人情・涙」を感じさせる人間的魅力にあふれた老獪な実力政治家が多くいました。人の心を掴み、難しい局面を打開してしまう人物が与野党問わずいたものです。
ところが最近はサラリーマン化し、心と心が触れ合う昔ながらの政治家がめっきり少なくなりました。その数少ない生き残りが二階さんと輿石さんです。今日は政界の「絶滅危惧種」(笑)であるお二方に、存分に語り合っていただこうと思います。
二階 ご親切に「絶滅危惧種」と呼んでいただきましたが、我々は絶滅しないからね。そんなふうに呼ばれて喜ぶ者がおりますか。
輿石 ねえ(笑)。
――それは失礼(笑)。絶滅させてはいけないという意味ですから。
二階さんは昨年、自民党幹事長を歴代最長となる約5年2カ月間務めて退かれましたが、「嫌いな奴とも酒を飲む」という二階流には、与野党問わずシンパが多くいます。
一方、輿石さんは山梨教職員組合の執行委員長から国政に進出。民主党参議院幹事長、同議員会長、民主党幹事長、参議院副議長など要職を務め、政界で辣腕をふるってきた重鎮です。6年前の政界引退後も持ち味の人心掌握術は健在で、今も野党勢力に強い影響力を持っています。二階さんと共通点もありそうです。
輿石 二階さんとは一緒に仕事をしたことがあるんです。民主党政権だった2012年、「イノシシや猿が和歌山のみかんを食べて困るんだ」と二階さんが私の元を訪ねて来られ、「一緒に議員立法をやらないか」と意気投合し、鳥獣被害防止特措法の改正法案を一緒にやったのです。後に二階さんは私のことを「あの男、2つ返事でやった」と持ち上げてくれましたが、志が同じなら、違う政党でも一緒に仕事ができるんだ。
二階 いや、私はもう輿石さんのことは大好きですから(笑)。
「心のふれあい」が足りない
――さて、岸田内閣の支持率が上昇しています。新型コロナやロシアによるウクライナ侵攻などへの対応を無難にこなしているのが要因だと思いますが、私はそれ以前に「安心と安定」を求める時代の気分に岸田さんがピタッとはまっていることが1番大きいと思います。お2人はどう評価していますか。
二階 総理は党内外の意見を素直に聞く努力をされているし、表現が非常に明快です。これが高評価の一因だと考えます。
ただ、トップリーダーは意見を聞くだけではなく、先頭に立ってこの国を引っ張っていく「気概」が必要です。これは与党内だけでなく、野党に対してもです。今後はその努力に期待をしたいと思います。
輿石 岸田総理は「聞く力」と最初から言っていますからね。でも、私もこれからは「やる力」だと思う。地元・広島でサミットを開くと打ち出して国民の注目を集めていますが、こうした機会に「やる力」をどれだけ見せられるかが勝負です。
あと、支持率が高いのには、野党に存在感がないことにも一因があります。どんな時代でも、政治にはバランスと緊張感が必要です。そのバランスと緊張感が崩れた時に、ピンチが訪れる。その意味でも、野党にはしっかりやってもらいたい。
一見、日本の政治は篠原さんが言うところの「安心と安定」のように見えるけど、実際はコロナとロシアで世界は大揺れです。その緊張感を見抜かないと、日本は大変です。
――日本ではこのところ政権交代が起きていませんね。自民党内での“擬似政権交代”が続いています。
輿石 野球でいうと、監督が国民・有権者で、ここのところマウンド(首相)には自民党からの登板が続いている。でも、そろそろ野党からの登板を入れたいなと思っても、ブルペンには野党が入っていない。この状況を変えるには、野党はもっと監督の心に響く政策を打ち出さなければならない。そして政権を取るという強い覚悟を示さなくては。
――とはいえ参院選に向けた野党の足並みは揃っていません。
輿石 だからこそ、今日のテーマが重要なんです。「心と心のふれあう関係」が足りないから、みなバラバラになってしまうのです。
二階 私は野党を批判する立場にはありませんが、やはり、心と心のふれあいは非常に大切ですね。政治に関心を寄せていただくためには、与党と野党が真剣に政策を切磋琢磨すること。そして「国民に奉仕し、尽くす」という出発点に立ち返って政治を展開すること。その気持ちが伝わった時に、観客席に坐っていたつもりの国民が、自然と立ち上がって身を乗り出してくれるのです。
――ただ、野党の現実政党化が進み、与野党の対立軸が見えにくくなっているのでは?
二階 そんなことはありませんよ。それぞれの政党は生い立ちもバックグラウンドも違うわけですから、おのずから意見は違ってきます。
ただ、対立ばかりしていたのでは何も進まない。だから、そこは心を通わせて、お互いに協力しあっていくことが大切なのです。
連合と立憲民主のすきま風?
――朝日新聞の世論調査によれば、「野党に期待できない」が80%に上っています。野党への国民の不満は相当なものです。
輿石 二階さんがおっしゃるように、政治家の出発点は国民に奉仕することです。ところが今の野党は、その部分が曖昧だと思うんです。結果、「だったら現状維持でいいや」と受け止められている。それが世論調査の数字に表れているのでしょう。
――もうひとつ、「連合」と自民党との接近が何かと取り沙汰されています。連合は立憲民主党などの野党支持を見直そうとしているのでしょうか。
輿石 いや、単純にそうは言えません。そもそも労働組合と政党は、組織の存在意義が違います。政党は政権を取りに行くのが目的ですが、労組は組合員の生活の質や権利を向上させるのが目的。だから両者の利害は完全には一致しません。賃上げなどは組合の要求に沿う内容について、「責任を持って企業に働きかける」と政府が言っている以上、与党に接近するのも不自然ではない。ただ、「なぜ連合が野党の応援団として存在してきたのか」という原点を忘れないでほしいし、野党と連合でよく話し合うべきでしょうね。最近の両者のぎくしゃくも心のふれあいが足りないんだと思います。
――一方、自民党は野党の現況に安住していませんか?
二階 いや、そんなことはない。自民党という政党は、リーダーのチェンジが常に起きる。穏やかだが激しい争いがあるわけで、とても安住なんてしていられませんよ。
――ただ、それはあくまで自民党内での話ですよ。野党とは関係ない。
二階 結局は、自民党が良い政治を実現する努力を続けられるかどうか。やはり政治は選挙というかたちで自らに対する評価が一目瞭然ですから、良い政治を実現する努力を怠りなくやっていく。そこだけです。
――参院選についてお伺いしたい。二階さんは前から改選過半数を与党で獲得しないと、勝ったとは言えない、と言ってきましたが、今もその考えは変わらない?
二階 全く変わっておりませんよ。ダイナミックな政治を行うには、安定した議席を得ることが肝要です。
「田中角栄と勝負だ!」
――ところで、心と心のふれあいという点でお手本になる政治家は?
二階 顧みて「なるほど」と思う先人として、やはり田中角栄先生を超える人はいまだに見つかりません。政治の隅々まで気を配り、1人でも多くの人の意見を吸収しようとする努力。それは素晴らしいものでした。そして、意見を異にする者でもいつの間にか取り込んでしまう心の広さというか包容力。
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source : 文藝春秋 2022年7月号