支持率低下は心配ない。不満を受け止めるのが政権与党の宿命だ。(聞き手・篠原文也)
二階氏(左)と篠原氏(右)
「五輪中止は簡単に議論するものではない」
――昨年9月16日に菅義偉政権が発足してから、およそ10カ月が経とうとしています。二階さんはここまでの働きぶりを率直にどのように評価されていますか。
二階 この10カ月、菅総理は一日一日を大事に、非常に謙虚な姿勢で仕事に取り組まれてきた。党の運営にあたり、また内閣のトップとしてリーダーシップを発揮していただいています。その意味で、十分高く評価できるのではないでしょうか。
――7月23日からは東京五輪・パラリンピックが開催予定です。新型コロナ感染拡大がおさまらず、医療体制も逼迫するなか、国内では東京五輪の中止・延期を求める声が高まりました。二階さんも今年4月、出演されたテレビ番組で「(感染拡大が続くようなら)すぱっとやめないといけない」と発言されていた。今は開催の方向で進んでいますが、どのようにお考えでしょうか。
二階 開催に向けての準備は、確実に整ってきているんじゃないですか。6月21日には政府・組織委員会・IOC関係者による「5者協議」で、観客の上限は最大1万人と決定されました。他にも感染対策のガイドラインを設定し、注意すべきところは十分注意し、開催に向けて動いている。
出場されるアスリートの方々も、東京大会を目指して何年も必死に頑張ってこられた。彼らの努力だけではなく、関係者の方々の支えがあって、ようやくこの東京大会が結実してきたのです。それを昨日今日で「中止にするべきだ」とか、そんな簡単に議論するものではなくて、アスリートが人生を賭けたチャンスを逃すことがないよう、皆が努力すべきだと考えています。私自身も、「東京五輪を開催しないということ」を考えたことは1度もありません。
――では、4月の「すぱっとやめないといけない」という発言は、どういう意図だったのでしょうか。
二階 あの時は、開催予定日まで3カ月ほどありましたから。何が何でも開催するのか、と問われれば、それは違うという意味で申し上げたことです。
――東京五輪を第5波が直撃する可能性もあるんじゃないですか。現に、東京ではリバウンドの兆候も見え始めている。
二階 反対・中止論が多いといいますが、実際に大会が始まれば世の中の評価もだいぶ変わってきますよ。懸命に頑張ってきた日本のアスリートが活躍する姿を見れば、国内も盛り上がっていくと思います。
批判を受け止めるのが与党の宿命
――政権の新型コロナ対策についてもお聞きします。ここまでの政策をどう評価されますか。
二階 最初に言っておきたいのは、今回のコロナ禍は、これまで誰も経験したことがない難題だということです。過去の知見の蓄積もなければ、教科書もない。いろいろと批判はありますが、この状況において菅総理は精一杯やってくれています。
――4月から高齢者対象のワクチン接種が始まりましたが、日本の接種開始は欧米諸国と比べると遅かった。このスピード感をどう捉えていますか。
二階 ここまで大規模なワクチン接種は、過去に経験のなかったことですからね。ですが、ここからワクチン接種は加速していく。6月中にはすでに「1日100万回」の目標に到達しましたからね。海外からも「さすが日本だ」と言われるようになっていくと思います。
――政権支持率は発足時と比べるとかなり落ち込みましたが、原因はコロナ対策でしょうか。
二階 やはり、新型コロナに対する国民の不安が大きいからでしょう。社会経済活動の自粛が続くなか、社会全体に焦りや閉塞感が漂っています。やり場のない感情はどこに向かうか。野党に「責任はお前の政党にあるんだ」と言ってもしょうがない。当然、政府に向かうに決まっている。それが支持率となって出てきているだけで、数字については心配していません。そこは批判の声をしっかりと受け止めて、自らの責任を果たしていくのが政権政党の宿命ですね。この時代をどう乗り越えていくか、大きな試金石だと思っています。
――菅さんには国民に訴え、語りかけていく熱っぽさがもう少しほしいですね。それはともかく、支持率回復のためには、経済対策も重要になってきます。来たる衆議院の解散総選挙を見据えると、大型の補正予算を組むことを前提に、夏頃には新たな大規模経済対策を打ち出す必要があるんじゃないでしょうか。
二階 金額はまだ申し上げられませんが、相当思い切った補正予算を組むことは当然ながら念頭にあります。「これじゃあ少ないからもう少し追加しなきゃいかん」というレベルの額では効果は上がらない。日本経済の行く末に、国民の間には危機意識が相当高まっています。そのような状況でチビチビとした対応はダメですよ。
――昨年末から一時停止中の「GoToトラベルキャンペーン」も、タイミングを見て再開させますか?
二階 キャンペーン再開を希望する声は自然と出てくると思います。旅行に行けない、観光地もお客さんがこない。いつまでもその状況では景気に期待が持てないじゃないですか。もっと元気を出して、前へ前へと行こうというのが、世の中の流れになっていくでしょう。
「こども庁」で次世代育成
――新型コロナ以外にも、日本は多くの課題を抱えています。例えば、「静かなる有事」とも言われる少子化問題。2020年の合計特殊出生率は前年から0.02ポイント低下し、1.34となりました。
二階 子は国の宝です。政権与党は、全ての子どもの未来に責任を持たなくてはならない。自民党は少子化対策にあたって先頭に立つべきだと思っています。
――そのような中、「こども庁」の創設が検討されています。二階さんは庁についての議論を取りまとめた自民党の「『こども・若者』輝く未来創造本部」の本部長でもありますが、狙いはどこにあるのでしょう。庁が扱う課題には子どもの貧困、虐待、いじめなどが盛り込まれていますが、私としては家庭教育の充実など、もう少し視点を広げて、ポジティブな施策も期待したい。
二階 子どもの虐待などは議論の余地のない犯罪ですから。処罰もより厳重にすべきです。それよりも、もっと前向きな施策を検討したい。小中高における教育はもちろん、家庭で親から教わることはその後の性根に大きく影響する。真剣に考えていく必要があると思います。
――児童手当の制度も、見直す必要があるのではないでしょうか。現在の制度では、児童の保護者のうち所得の高い方(主たる生計者)が基準となっていますが、所得が960万円を超えると減額、1200万円を超えると支給対象外となってしまいます。例えば、ご主人の所得が1300万円の家庭だと支給対象外になりますが、夫婦でそれぞれ600万円・700万円を稼いでいる家庭は、合計で1300万円なのに支給を受けられる。これはおかしな話です。
二階 細かいところを見ていくといろいろあるでしょう。篠原さんのご指摘も踏まえ、気づいたところから順に直していきたいと思います。
――専業主婦世帯は減ったとは言え、575万世帯存在しています。子育てや介護なども抱えながら、立派に「家庭内労働」をしている専業主婦も多いわけですから、もう少し配慮があってもいいのでは。
二階 戦前、戦中、戦後――いつの時代も女性たちは社会に大きく貢献してきました。子は国の宝であるように、女性も国の大きな財産です。時代に遅れをとらないよう、現実に見合った制度を設計する必要がある。あらゆる立場の方々の力になれるよう、包括的に考えていきたいです。
中国よりもアメリカとの関係
――中国についてもお聞きしたい。新型コロナのパンデミックを境に、日本人の対中感情は悪化しています。感染拡大が武漢市から始まった際、中国当局の対応が不十分だったことも一因だと考えます。他にも、香港への介入、新疆ウイグル自治区での人権問題など、最近の中国の振る舞いは目に余る。そろそろ大国としての自覚を持ってほしいというのが、日本国民の総意ではないでしょうか。コロナについて言えば、「マスク外交」や「ワクチン外交」を展開する前に、世界に向かって「迷惑をかけた」と一言謝れば、中国に対する印象が変わると思うんですが。
二階 そんなことを中国が言うわけがないです。第一、ウイルスが武漢から流出したという確たる証拠もないでしょう。それはどうぞ、中国へ行って言ってきてください。そんなことで喧嘩を売りにいっても、喧嘩にならないですよ。
――そこは政界きっての親中派である二階さんが、バシッと言うことに意味があると思いますよ。
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source : 文藝春秋 2021年8月号