告白手記 母の焼死と長野五輪の怨念を越えて

葛西 紀明 スキージャンプ選手
エンタメ スポーツ

コメも買えないほど貧乏だった幼少時代。挫折続きの人生、でも決して負けなかった

葛西紀明選手 ©雑誌協会代表

 二月のソチ五輪から早三カ月が経ちます。帰国してからというもの、嬉しいことに多くの方に「おめでとう」と声をかけていただきました。毎日忙しいけれど、これもメダリストの宿命だと思って過ごしています。初めて五輪に出場してから二十二年、僕はずっとこんな日を待ち望んでいたんです。

 四月十七日には、春の園遊会にお招きいただきました。フィギュアスケートの金メダリスト、羽生結弦選手も隣にいましたが、この日、メダルを持ってきたのは僕だけだった。天皇陛下も皇后さまもメダルをお持ちになって、「重うございますね」「長い間頑張っていますね」と声をかけて下さいました。本当に有難いことです。

 五月一日には故郷の北海道下川町が祝賀パレードを開いてくれました。人口三千五百人の町に、五千人の方が詰めかけてくれた。パレードの後、父の家にある母の仏壇に手を合わせ、墓前へ五輪の報告に行きました。

「母さん、やっとメダルを獲れたよ」

 貧乏と闘いながら必死で働いて僕たちを育て、ジャンプまでやらせてくれた母には、いくら感謝しても足りません。ここまで思った以上に長い、長い時間がかかりましたが、ようやく母に恩返しできたのかなと思います。

 五輪には七回出ましたが、僕のジャンプ人生は決して順風満帆ではありませんでした。辛いことのほうがたくさんあった。でも、それも僕の運命だと思って生きてきました。だけど、いつか必ず良いことがある――そう信じて生きていたのです。

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source : 文藝春秋 2014年07月号

genre : エンタメ スポーツ