皇族に恋愛の自由を

炎上と分断を超えて

三浦 瑠麗 国際政治学者
ニュース 社会 皇室
三浦瑠麗氏 ©文藝春秋

 現代の民主国家において皇室を戴くことの本質は、国を統べる民主主義という剥き出しの制度の痛みを和らげる作用にあります。もちろん、皇室自体はそのようにして始まったわけではありませんが、度々危機に見舞われながらも消滅しなかったという事実が、皇室を日本の歴史を貫く存在たらしめています。

 エリザベス女王の国葬に世界中が盛り上がる様子などを見るにつけ、日本人にとどまらず人類はまだ民主主義という人工的な制度に順応できていないのではないでしょうか。国家よりちいさなまとまりとしての共同体概念が失われつつある今、歴史のタテの糸を意識することなしに帰属意識や使命感、集団への責任を想像しにくいというのもあるでしょう。しかし皇室という伝統の力に頼ってきた日本人が、一人の姫宮の単純な恋愛を騒ぎ立てることによって、皇室の存続が危ぶまれる状況へと追い込むに至ったのは皮肉なことです。

 内親王が母子家庭の青年に恋をし、その母親が過去に交際男性から援助をとりつけて学費や生活費を工面してきた。それ自体はスキャンダル的要素があったとしても、普通なら皇室全体を揺るがす事態になるとは考えにくい。それだけに眞子さんに向けられたバッシングの異常さは際立っています。そもそもの原因は皇室が大衆に近づきすぎたことにあり、世の大衆化と価値観の相対化が進み、皇室がもはや手本たり得なくなった故ではないか。そう考えています。

 近代における皇室は、模範を示すことで国民生活の変化を牽引してきました。明治天皇は西洋に倣い近代家族としての皇室の肖像を打ち出し、一夫一婦多妾制から一夫一婦制への過渡期を繋ぎました。大正天皇は側室を置かず、妃をエスコートするなど西洋式を意識した振舞いも見せて話題となります。昭和天皇も女官を通勤制にするなどの改革を通じて一夫一婦制を貫きました。戦中の反動的な偶像化はあったものの、戦後の昭和天皇と皇后は再び社会の中に降りてきます。娘たちを良家に嫁がせて夫の収入なりの堅実な暮らしをさせ、夫婦が相和すことを望みました。

 現在の上皇は民間から妃を迎え、乳人制度によらない「普通の子育て」をする一般家庭的なスタイルをとりました。天皇家とて子どもたちを手元において慈しみたいと思う、そんな親としての自然な気持ちがあるのだという人々の理解は、皇室をさらに民間に近づけたと言えましょう。

小室圭さんと眞子さん ©時事通信社

 皇室に果たして民間人が考えるような「恋愛結婚」なるものが存在したかといえば微妙ですが、メディアは現上皇と美智子妃の結婚に世間が求めるロマンチックなストーリーを演出したがり、皇室はその理想像に寄り添ってきました。

 しかし、美智子妃が結婚にあたって自らに思い定めた自己犠牲を恋愛と呼んでよいのかは分からないところがあります。特異な使命を背負う良人を支える人生を受け入れ、自分はその支え手であり、究極的には男子を産むことに意味があるのだと認識し受け入れるのは、大変複雑な心のありようだからです。比較して、雅子妃は世代も下り、外務省でキャリアを築いていたことからも、美智子妃のような認識に立つことが難しかったのではないでしょうか。それが天皇による「人格否定」発言へと繋がってゆきます。

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source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : ニュース 社会 皇室