「これなんだろう」から自由に想像できる
※片岡真実さんが登場したグラビア「日本の顔」もぜひご覧ください
東京・六本木にある森美術館で2003年からキュレーターを、2020年1月から館長を務めています。ほかの美術館の方から「年齢の若い人がなかなか来ない」と聞きますが、幸いにも当館へは多くの若い方にお越しいただいています。開館20周年にあたる2023年に調べたところ、来場者の75%が40歳以下でした。「森さんはいいですね」とも言われますが、逆に、ご年配の方にもっといらしていただかないといけません。
私たちは現代アートと呼ばれる作品を主に展示しています。よく「現代アートってわからない」という声を耳にします。確かに古典作品は歴史的評価が定まっていますが、現代アートは背景や芸術家を知ることで理解が深まる喜びがあります。現代アートはこの「わからない」感覚こそが魅力なのです。
人は、年齢や経験を重ねながらあらゆる分野に自然と触れますが、一方で先入観に囚われることもあります。それが若い方にはまだありません。作品を前に「わからないけれど、これはなんだろう」と想像を膨らませたり、自分なりに理解しようとしたり。固定観念から解放されるのが現代アートのいいところです。そういう意味では若者との相性がいいのかもしれません。
かくいう私も、アメリカの大学に留学していた頃にニューヨークで現代アートの洗礼を受けました。1985年から86年にかけて、ペンシルバニア州からニューヨークに住む叔母のもとへ休みを利用して出掛け、美術館やギャラリーに足を運びました。そこには教科書で見るような作品の本物がゴロゴロと展示されていて、なんて面白いんだろうとたびたび訪れるようになったのです。
なかでもソーホー地区で観た、ウォルター・デ・マリアの《The New York Earth Room》という作品には度肝を抜かれました。ギャラリーの床一面が50センチ以上の深さの土で埋め尽くされているのです。ビルという人工物の中に自然の土がただ広がり、室内彫刻として作品化されていました。アメリカでは1960年代に自然の大地や景観を素材として制作するランド・アートや、アーティストの観念を表現したコンセプチュアル・アートが興りましたが、当時のニューヨークにはその残り香がまだありました。日本では観たことがないものばかり。この鮮烈な体験が、今の仕事に至る原点だったのかもしれません。

シリコンバレーでの出合い
日本において現代アートの歴史は日が浅いですが、当時池袋にあった西武美術館を設立した故・堤清二さんは、自らの事業を「時代精神の運動の根據(こんきょ)地」と語り、国内に国際的な現代アートの潮流を起こしました。
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