著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、片岡真実さん(森美術館館長・キュレーター)です。
父はとても口の重い人だったので、会話をした記憶は限られている。彼は英国国教会の系統に属する日本聖公会の牧師で、家族は聖堂に隣接する牧師館に住み、そこが彼の職場だった。専門書に囲まれた書斎で日々本を読み、日曜日には難しい説教をした。キリストに倣って生き、世界情勢に目を向け、社会の最も弱い者に寄り添うという生き様を、分からないながらも、幼い頃から刷り込まれた。ただ、「このように生きろ」と言われたことは一度たりとてなく、諭されたことはあれど、怒られたことは終ぞなかった。
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source : 文藝春秋 2024年9月号