いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。
蜜月から対立へ――インドとアメリカの関係は、2025年に激変した。モディ首相とトランプ大統領の関係は、後者の一期目から非常にウマが合うと言われてきた。2025年2月にホワイトハウスで印米首脳会談が行われた際も、それは変わらなかった。ところが、7月に入って雲行きが一気に怪しくなる。トランプ大統領がインドによるロシア産原油の大量購入に非難の矛先を向けたのである。ロシアの対ウクライナ継戦能力はインドの原油輸入によって支えられている、というのが言い分だ。そこで持ち出したのは関税だった。インドには相互関税25%に加えて「ペナルティ」として25%を上乗せし、合計50%にするとしたのである(8月末に実施)。
インド側は強く反発した。ロシアからの原油輸入をやめるつもりはないことを明確にするとともに、景気への影響を抑えるべくGST(間接税)大幅減税も行った。ただ、高関税が常態化してしまうことの弊害は小さくない。インドにとってアメリカは最大の貿易相手国である。全輸出に対米輸出が占める割合は20%で、2位のアラブ首長国連邦に倍以上の差をつけている。インドの台頭は急速な経済成長を背景にしている。その前提が揺らぐことになれば、さらなる大国化に向けた目算にも狂いが出かねない。

奇妙なのは、ロシアからの原油輸入はいまに始まったわけではないことだ。2022年2月にウクライナ侵攻が始まると、インドは翌月からロシアからの原油購入を急増させた。2024年度でもロシアは最大の原油供給国になっている。バイデン政権がこれを問題視したことはあった。しかし、2025年2月のモディ・トランプ会談では取り上げられることもなかったし、同年4月のバンス副大統領訪印も実施された。
トランプ大統領のインド観を大きく変えたのは、5月に起きたインド・パキスタンの軍事衝突をめぐる動きと見られている。インド側は前月にカシミール地方で起きたテロについてパキスタン側から自国領に侵入した過激派組織による犯行だとして、越境攻撃を行った。これにパキスタン側も反撃したことで事態のエスカレートが懸念されたが、結果的には4日間で停戦となった。トランプ大統領はSNSで、これは自身の「仲介」によるものだと主張した。しかしインドの説明は、印パ軍当局の電話会談で合意に至ったというものだった。一方のパキスタンはアメリカの「仲介」に謝意を示した。ノーベル平和賞を欲していると言われるトランプ大統領にとって、どちらの姿勢が心地良いかは明らかだ。
ただ、これで終わらないのがインドの粘り腰だ。対米貿易交渉は続けていく姿勢で、9月には両国の協議が行われた。トランプ大統領も関係修復を念頭に置いてか、モディ首相の誕生日に電話で祝意を伝えた。モディ政権としては、対米感情が悪化する中で大幅な譲歩をすれば国民から弱腰と見られかねない。それだけに交渉妥結は容易ではないものの、決裂は回避したいのが双方の思惑だろう。
実は他にも火種はある。トランプ政権は医師やエンジニア等の高度人材を対象とするH-1Bビザの発給に際し、10万ドル(約1500万円)もの手数料を課すと発表した。ハードルを高くすることで、人材面で「アメリカ・ファースト」に誘導するものと言える。このビザで滞米する者の7割超をインド人が占めていることを考えれば、影響は計り知れない。もう一つはイランのチャーバハール港開発だ。これはイランが地域の物流ハブとして開発を進めているもので、インドの政府系企業が運営を担っている。アフガニスタンの海へのアクセス確保支援の観点から、アメリカは同港の開発を対イラン制裁の対象外としていた。しかし、トランプ政権はイランにさらなる圧力をかけるべく、この例外措置を2025年9月29日で終了させるとした。インドとしてはアフガニスタンのみならず中央アジアへの連結促進という点でも同港を重視しているだけに、イランとの二国間関係にとどまらない打撃となる。
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