覇権争いが激化する歌舞伎界、将来の「国宝」級役者

スターとして抜け出すのは誰か

児玉 竜一 早稲田大学教授

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いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。

 映画「国宝」の思いがけない大ヒットによって、2025年は「歌舞伎」という文字が各方面に現れた年になった。邦画の実写映画で興行収入歴代2位、22年ぶりの100億超えという、事前に誰も予想しなかった社会現象となれば、映画としての評価、ヒットの要因分析は、これから時間をかけて議論があるだろう。

 むしろ、映画をきっかけとして本物の舞台の歌舞伎も見てみたくなった、という浮動層をどう迎えるかという方策こそ、鉄は熱いうちに打ての待ったなしで、歌舞伎界の対応が注目される。映画の中に登場した「二人藤娘」(実は伝統的な演目ではなく、近年の新演出)は10月博多座・南座、「鷺娘」は12月南座での上演が決まった。最も重要な演目として登場した「曽根崎心中」も、遠からず、どこかの劇場で上演されることだろう。

映画「国宝」の李相日監督(左)と主演の吉沢亮さん ©時事通信フォト

 歌舞伎界では2025年は、八代目尾上菊五郎襲名披露という大名跡の継承事業が行われた年で、現在の歌舞伎興行全般を仕切る松竹の、創業130年というメモリアルイヤーでもあった。歌舞伎は国のバックアップによって税金で運営されているという、大きな誤解をしている向きが少なくないが、歌舞伎は松竹という私企業によって興行されており、一国を代表する古典演劇が、同時に純然たる商業演劇でもあるといった事態は、世界に例をみない。歌舞伎の運営は、伝統を継承しつつ、同時代にアピールする興行材として生き続けなければならないという、極めて困難な二元の道を必須とする。だからこそ、漫画やアニメ原作の新作(近年では「ワンピース」「NARUTO」「風の谷のナウシカ」「ルパン三世」など)や、「刀剣乱舞」「ファイナルファンタジー」といったゲーム原作の新作歌舞伎など、新規客層開拓のための手段も講じられる。また、上方歌舞伎の拠点でありながら、採算の難しい大阪松竹座を閉館する(8月28日に発表。具体的な今後の予定については、まだ正式発表がない)といった厳しい事態を迎えることもある。

 現在の歌舞伎界は、およそ30年から40年に一度の、世代交代の大波の中にある。戦後歌舞伎を支えた世代は昭和の末から平成一桁ごろに退場し、今、平成の歌舞伎を牽引した世代が、70代後半から80代を迎えているのである。

 2025年には「仮名手本忠臣蔵」「菅原伝授手習鑑」「義経千本桜」という古典演目を代表する三作が、揃って通し上演(丸一日がかりで、作品全体を上演する形態)された。三作すべてに出演の大幹部世代は片岡仁左衛門だけで、仁左衛門もひと月の半分だけに出演して、残る半分は若い世代に任せるといったダブルキャスト方式が取られた。仁左衛門の体力に配慮しつつ、次世代に経験を積ませるという一石二鳥の案だった。執筆時までに上演された「忠臣蔵」「菅原」は、切符の売れ行きもいい。映画「国宝」からの新規客層が、古典演目回帰をもたらすかどうかが、今後を占うだろう。

今後数十年の楽しみをもたらす「贔屓」

 では、今後の歌舞伎界をリードしてゆくのは、どういった面々になるのか。

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source : ノンフィクション出版 2026年の論点

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