親子のかたちは時代を映す。昭和59年から40年続いた長寿連載、一号限りの豪華リバイバル
人生で一番苦しかった時期のことを今でもはっきりと覚えています。2002年末、25歳の時です。この時、実家が経営していたスーパー「カミヤストアー」が倒産しました。私が5歳の時に、父が祖父からの出資で始めた店でした。私はこの倒産の事後処理を1人でやりました。
福井県高浜町の和田という海辺の田舎町にある1店舗だけのスーパーでしたが、それでも20人ほどの従業員を抱えていました。ただ、同時に1億円ほどの負債も抱えていた。
ずっと経営が苦しくて、幼い頃から両親は「離婚する」なんて言って喧嘩ばかりしていました。いよいよ首が回らなくなり、私が大学を出るタイミングで呼び戻されたんです。当時、私は弁護士を目指して司法試験の勉強中。だから田舎には戻りたくなかった。でも、父はこの時、私に対して「もう借金が返せない。自分がもし死ぬようなことがあったら、借金を生命保険で返してくれ」なんてことを言った。

小さい頃の父は厳格で怖い仕事人間でした。酒も飲まず、休日もなく働いていたので、旅行に連れて行ってもらったこともありません。でも、たまの息抜きに、「宗幣、映画行くか」なんて言われて映画館に行き、ジャッキー・チェンの『ポリス・ストーリー』などを見たのは嬉しかった。それで今では私も息抜きにレイトショーに行くんです。
仕事一筋の父がここまでしょぼくれて、後ろ向きのことを言うわけですから、悲しさと父の無責任さへの怒りでいっぱいでした。2人いる妹のうち1人はまだ高校生だというのに。それで、私がやるしかないと思って地元に戻ることにしました。
働いてみると、確かにこれは潰れるだろうなと思いました。店の経営状態が悪いなら普通はリストラをしますよね。でも、父にはそんなことはできなかったんです。優しくて、少し弱い人なのだなと感じました。
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