海中ロボットはレガシーになる
1月12日、地球深部探査船「ちきゅう」が静岡県・清水港を出航しました。三保の松原の対岸に富士山がくっきりと浮かび、145人の乗員を見送っていました。目的地は本州から約1900キロの南鳥島沖。海底約6000メートルから、高濃度のレアアースを含む深海底の泥「レアアース泥(でい)」を採鉱すべく向かったのです。
数日かけて、現場に到着すると、1月18日に船体中央の開口部から、パイプをつないで採鉱機を下ろし始めました。例年に比べて天候が悪く、慎重に作業を進めていき、約6000メートルの海底に先端の採鉱機が着底したのは1月30日。わずかに泥が巻き上がり、ゆっくりと採鉱機が沈んでいくのがカメラ越しに分かりました。周囲にはマンガン団塊がごろごろと転がり、深海魚が近くで泳いでいました。まるで“深海の神様”が立ち会って祝福してくれたかのようでした。

採鉱機が動き始めると、パイプを通してレアアース泥と海水が混ざった「泥水(スラリー)」が船上に揚がってきました。最初は海水ばかりですが、時間が経つにつれ赤銅色のレアアース泥の濃度が増していき、2月1日未明にレアアース泥を船上に揚泥できたことが確認できました。“夢”だった深海約6000メートルからのレアアース泥の採鉱がついに“現実”となった瞬間です。
海底約6000メートルからレアアース泥を連続的に採鉱したことは、世界で初の快挙です。内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環であるこのプログラムは、既にスタートして10年以上。海洋研究開発機構(JAMSTEC)をはじめとする9府省庁4国立研究機関、民間の協力会社が連携して研究開発に取り組んでいます。
こう語るのは、2018年からプログラムディレクターを務める石井正一氏だ。1973年に石油資源開発株式会社に入社し、2014年に代表取締役副社長に就任。長年、同社で海洋資源開発に携わってきた。

なぜこれほどの歳月をかけて深海の泥を引き上げるのか。それは「レアアース」が日本の産業と安全保障上、極めて重要な“戦略資源”だからです。

レアアースとは何か
「レアアース」とは、スカンジウムとイットリウムの2元素、ジスプロシウムなどのランタノイド15元素からなる17元素の総称です。読者には聞き慣れない名前ばかりでしょうが、現代のハイテク製品に不可欠な希少元素です。
最大の用途は「高性能磁石」。普通の磁石は高温になると磁力を失いますが、レアアースを極く少量加えるだけで高温でも磁力が落ちません。いわば磁石にとっての“栄養ドリンク剤”で、この高性能磁石が、ジェット機や戦闘機のエンジン、EVのモーター、ロボットのアーム、リニアモーターカー、ロケットなどに使われています。
現状では、レアアースの「採掘」・「製錬」(鉱石から複数のレアアース元素を含む混合物を取り出す工程)・「精製」(その混合物から個々の元素を高純度で分離する工程)で、中国が圧倒的なシェアを誇っています。2024年時点で「生産量」は世界の約69%、「製錬量」は約91%を占めています。
日本は「中間製品」や「最終製品」、例えば電動モーターの製造などで一定のシェアを維持していますが、上流の「素材」がなければ、「製品」はつくれません。
「中東に石油あり、中国にレアアースあり」という鄧小平の言葉通り、中国は長らくレアアースを“戦略物質”と位置づけてきました。鉱石からのレアアースの「製錬」は、化学薬品の使用と放射性物質を含む廃棄物を伴い、「環境負荷」が大きいのですが、「経済」と「資源戦略」を優先して、中国は低コストかつ大規模に製錬を行い、シェアを拡大しています。
空母と戦闘機による威嚇
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