USスチール買収で日本は鉄のゲームの勝者になる?

トランプ大統領との交渉の舞台裏

広野 真嗣 ノンフィクション作家
ビジネス 経済

いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。

 1年半にわたった日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール(USS)の買収交渉は2025年6月、日鉄の会長兼最高経営責任者(CEO)橋本英二氏が完全子会社化という執念を実らせ決着した。

 私は24年から橋本氏への取材を重ねてきた。バイデン氏、トランプ氏という2人の大統領に反対されても強気を貫いてきた橋本氏が、「これでいける」と確信したと語る瞬間がある。買収承認の大統領令を出す2週間前の5月30日、トランプ氏がわざわざピッツバーグの製鉄所に赴いて開いた集会での演説だ。

 直前まで買収に否定的だったトランプ氏が、“ディールは最終段階にある”と明かすと、数千の鉄鋼労働者たちは〈やったぜ!(We get it!!)〉と熱烈に歓迎。壇上に招かれた勤続20年のベテラン労働者も同じ言葉を口にした。職場存続の危機感から日鉄に期待したこと、早くからトランプ支持を表明する一方、買収に反対しないよう働きかけてきたのだという。

 実は、このベテラン労働者は全米鉄鋼労組(USW)の支部幹部だ。日本ではUSWの強硬姿勢ばかりが報じられてきたが、こうした現場からの説得にしだいに同調者が増え、トランプ氏の背中を押したのだろう。彼ら米国の労働者こそ後述するように、26年の提携の成否を握る存在ではないか。

 買収契約のポイントはざっくりいって2つある。一つは、総額141億ドル(約2兆円)で日鉄がUSSの全株を取得したこと。買収後の粗鋼生産量は5782万トン(24年度実績)と、世界3位に迫る規模になる。すでにブラジルやインドに拠点を確保している日鉄は世界一の宝武鋼鉄集団に伍する「粗鋼生産1億トン」実現に向け前進した。「あと10年で世界一に」と橋本氏は意気込む。

橋本英二氏 ©文藝春秋

 もう一つは、両社と米政府が「国家安全保障協定」を締結したことだ。協定には28年までに日鉄が約110億ドル(約1兆6000億円)を投資することや、米政府に「黄金株」を付与することが盛り込まれた。日鉄はその後29年以降の投資案も発表し、積極姿勢を鮮明にする。ただ、黄金株は、米国内の工場閉鎖など重要な経営事項について拒否権を持つ特別な種類株だ。経営環境が悪化した場合、合理化の足枷となる可能性はある。

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source : ノンフィクション出版 2026年の論点

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