過去を知ることは未来を読むための羅針盤になる。この連載を開始した本誌3月号で筆者はこう書いた。
「トランプ大統領は、政治ショーでの利用価値がなくなれば『あとはお好きに』とUSスチールを放り出し、石破首相が訪米する頃には『日本製鉄の投資を歓迎する』と手のひらを返しているかも知れない」(「日本製鉄に立ちはだかる鉄鋼王(カーネギー)の栄光」)
6月13日、ドナルド・トランプ大統領は、バイデン前大統領が「日本製鉄によるUSスチールの買収を禁止する」とした大統領令を修正する大統領令に署名した。日本製鉄が米政府との間で国家安全保障協定を締結すれば買収計画を承認するという判断を示したことになる。
続いて6月18日、日本製鉄によるUSスチールの買収が完了した。
予想より4ヶ月ほど遅れたが、トランプ大統領は見事に手のひらを返した。筆者がそれを予測したのは、第1期のトランプ政権で商務長官を務めた「元祖ハゲタカ」、ウィルバー・ロス氏に近い筋が、筆者にこう語ったからだ。
「ドナルドは大統領選で有利だと思ったから『日本製鉄とUSスチールのディールを阻止する』と言った。しかし当選してしまえば話は別だ。ギリギリまで『阻止する』と言い続けることで日本製鉄が条件を引き上げれば、それも良し。別の会社がUSスチールに対してもっと良い条件を提示してくるのなら、それも良し」
足元を見られた日本製鉄
トランプ大統領の本質はビジネスマンだ。判断は常に「損か得か」が基準になる。最初にビーンボール(危険球)まがいの高い条件を突きつけてから、「ディール(取引)」によって落とし所を探るのがビジネスマンの常套手段である。今回のビーンボールは「買収阻止」だった。
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