官製ファンドのINCJ(旧産業革新機構からの新設分割により発足)が2025年3月末、16年間の活動を事実上終了。6月30日には志賀俊之会長らが記者会見し「約16年間の投資活動で1兆円超の利益を出した」と発表した。
「投資利益1兆円」と聞けば大儲けしたように思えるが、16年がかりだから1年の利益は600億円強。投資ファンドとして見れば落第だ。しかも16年間にわたるINCJの活動は数字以上のマイナス効果を日本経済に与えている。それは「国が税金で民間企業の尻拭いをする」というモラル・ハザードを蔓延させ、「ゾンビ企業」の増殖を助長したことだ。

「経産省の財布」と呼ばれたINCJの資金の59%は電機産業などの「再編」に投じられた。最たるものが2012年にINCJが2000億円を出資して、日立製作所、ソニー、東芝の中小型液晶事業を統合して設立されたジャパンディスプレイ(JDI)だ。
JDIの最終損益は、設立から2年間の2013年3月期(35億円)、14年3月期(287億円)こそ黒字だったが、15年に95億円の赤字に転落した後、直近の2025年3月期まで、実に「11期連続の赤字」を記録し、累積赤字は7300億円に及ぶ。官民一体で巨額の設備投資を続けた韓国や中国のパネル大手に規模の勝負で敗れ、唯一最大の顧客であった米アップルにも見捨てられた。
かつて1兆円に迫った売上高は25年3月期に1880億円まで目減りし、1株800円を超えていた株価は19円に。一般の上場企業であれば、3期連続で最終損益が赤字の会社は「銀行管理」になり、それ以上、赤字が続くと私的整理か法的整理が検討される。いわゆる「倒産」だ。しかしJDIは11期連続で赤字を計上しながらも、東証プライムに上場している。国が税金を投入した「国策企業」だから、潰すに潰せないのだ。
INCJの目的は「次世代の国富を担う産業を育成・創出する」ことである。志賀会長は「企業救済はやらない」と言い続けてきたが、銀行が融資もできないJDIへの出資は「延命」以外の何物でもない。11期連続赤字でなお上場。「倒産」すらできないJDIは「ゾンビ企業」の象徴だ。
経産省の「罪滅ぼし」
なぜINCJはJDIを救済したのか。液晶、プラズマの薄型ディスプレイを、かつて惨敗した半導体に代わる輸出産業にしようと、散々旗を振った経済産業省の「罪滅ぼし」だったと筆者は見ている。
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