越えなければならないハードルは高い
高市早苗首相の「台湾有事発言」で日中関係が軋んでいる。長らくタブーであった「軍備増強」に日本政府が踏み出したことが背景にある。だが自らに「専守防衛」を課してきた我が国の防衛産業は米欧や中露に比べ、個々の企業のサイズがあまりに小さい。本気で「自国を守る」のなら国民的なコンセンサスを得た上での、防衛産業の大再編と大投資が必要だ。
「日本は軍事能力を大幅に増強している。米国は日本から大量に新たな軍備品の注文を受けている。戦闘機やミサイルなど我々は世界最高の軍事装備品を製造している。かつてない規模で巨大な貿易をすることになるだろう」
10月下旬に来日したトランプ米大統領は高市首相との首脳会談の冒頭、上機嫌でこう語った。日本がトランプ大統領に渡した「手土産」の目玉は防衛装備品の爆買いだ。
日本は2025年度予算に戦闘機など米国製の防衛装備品の購入のため約1兆円を計上している。先の関税を巡る交渉で8回訪米し「ピストン赤澤」の異名をとった赤澤亮正経済再生担当大臣(現経済産業大臣)は、「(米国製防衛装備品の購入額を)年間約30億ドル(約4400億円)増額する」というカードを切った。
米国製の防衛装備品を買うだけではない。首相は2027年度までに防衛費をGDP(国内総生産)比2%に増やす目標を、本年度中に前倒しして達成する方針を明言している。
防衛バブルが到来
「まさか重工さんに抜かれる日がくるとは」
2025年の夏、三菱商事の幹部がこう漏らした。同年6月6日に三菱重工の株式時価総額は三菱商事を抜き、8月13日時点では三菱重工の株式時価総額は13兆8656億円、三菱商事は12兆7871億円となっている。三菱商事の時価総額は2021年までの10年間、3兆~4兆円で推移。日経平均全体が上昇傾向に転じた22年以降は6兆7950億円(22年3月末)、14兆2892億円(24年3月末)と急伸した。
三菱重工の時価総額は長らく1兆~2兆円で推移し、20年3月末には1兆円を割り込んでいる。これが24年から急騰し、4兆8699億円(24年3月末)、8兆4814億円(25年3月末)ときて、同年6月についに三菱商事を抜いたのだ。
理由ははっきりしている。22年12月に岸田内閣が、これまで「おおむねGDP比1%以内」とされてきた防衛費を27年度に2%とする「安全保障関連三文書」を閣議決定したからだ。防衛費の拡大は着実に進んでおり、25年3月期の三菱重工の防衛・宇宙事業の受注高は防衛費増額前の3倍超の1.8兆円にまで跳ね上がった。
同じ理由で川崎重工業の株価は10月27日、三菱電機の株価は11月4日にそれぞれ上場来高値を更新した。株式市場では「防衛バブル」とも言える状況が生まれている。

ただ日本の防衛産業は世界に比べると、規模が小さく経営効率も悪い。防衛部門の売上高が1兆円を超えているのは三菱重工だけで、これに続く川崎重工、三菱電機、NECなどの防衛部門売上高は3500億~5700億円規模である。
SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)による2023年度の推計では、11兆6600億円のRTX(旧レイセオン)、10兆2600億円のロッキード・マーチンといった米国勢、5兆800億円の英BAEシステムズ、2兆8900億円の伊レオナルドなど世界の大手と比較しても、日本の防衛企業は「中堅・中小」のレベルである。
欧州で進んだ防衛統合
世界の防衛産業の歴史は再編の連続だ。
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