いかがわしいものからしか、次の成功者は現れない
2025年11月22日、国立競技場で開かれたサッカー天皇杯の決勝戦。プロ、アマ含めた参加88チームの中で最後に勝ち残った2チームは、前年の覇者ヴィッセル神戸と前年J1リーグに昇格したばかりの町田ゼルビアだった。
注目の一戦は3対1で町田が制して初タイトルを獲得した。実はこの戦い、インターネット業界の「師弟対決」でもあった。神戸のオーナーは楽天グループ(以下、楽天G)創業者の三木谷浩史氏。町田のオーナーはサイバーエージェント(以下、サイバー)創業者の藤田晋氏である。
三木谷氏と藤田氏の因縁は深い。
2023年5月、携帯電話事業への巨額投資で赤字が続き創業以来最大のピンチを迎えていた楽天Gは、同社にとって過去最大となる約3300億円の増資を実施すると発表した。この中にサイバーを引受先とする100億円の第三者割当増資が含まれていた。
楽天モバイルの携帯インフラ投資は、一部でKDDIの回線を借りる方法から、すべて自前の回線にする方法に戦略転換したことで、2020年の参入当初、6000億円と見込んでいた設備投資額が1兆円を超えた。株式市場は楽天Gの資金ショートを懸念して株価は暴落。SNSでは自称専門家らが「楽天終了」「破綻は時間の問題」と悲観的な言説を流布した。
三木谷氏自身は「EC(インターネット・ショッピングの楽天市場)やフィンテック(楽天カード、楽天証券など)は順調に増益しており、資金繰りは全く問題ない」としていたが、携帯インフラへの投資を始めてから4年連続の最終赤字。21年に総額2423億円の第三者割当増資を引き受けてくれた日本郵政、中国ネット大手のテンセントの子会社、米小売大手のウォルマートなどに、株価下落で多額の含み損を抱えさせており、決して「順調」ではなかった。
藤田が陥った最大のピンチ
藤田氏はなぜ苦境の楽天Gに出資したのか。氏は「純粋な投資」としか語らないが、実はこの投資は、藤田氏から三木谷氏への「20年越しの恩返し」だった。

日本でもネットバブルが崩壊し、ネットベンチャーの株価が軒並み暴落した2001年、藤田氏は「社長を辞めようか」と思い詰めるほどの危機に瀕していた。「もの言う株主」として世間の注目を集めた元通産官僚、村上世彰氏率いる投資ファンド、M&Aコンサルティング(通称=村上ファンド)が暴落したサイバー株を買い集め、10%を保有する第4位株主に躍り出て、サイバーに「会社の解散」を要求してきたのだ。
1998年創業のサイバーは当初、ネットバブルで雨後の筍のように生まれたネットベンチャーの営業代行からスタートした。エンジニアが立ち上げたネットベンチャーはどこも営業担当者がいなかったので、それなりに儲かった。
やがて営業代行に限界を感じ始めた藤田氏は、米国で実際に見られた分だけ広告料をもらう「クリック保証型広告」というサービスが伸びていることを知り、そちらに舵を切る。営業代行という「力仕事」をやっていたサイバーに、そんなシステムを組み上げられるエンジニアはいなかったが、これを「楽勝っすよ」と請け負ったのが、堀江貴文氏率いるオン・ザ・エッジ(後のライブドア)だ。
米国で流行ったサービスを日本に持ち込めば成功する「タイムマシン経営」がまだギリギリで成立するタイミングだった。サイバーは2000年3月、創業3年目で東証マザーズ市場(現東証グロース市場)に上場し、市場から200億円の資金を調達する。26歳の藤田氏は一躍、時代の寵児になった。
しかし、わずか9カ月後にネットバブルが崩壊。サイバーの株価は上場時の8分の1に急落し、12月の株主総会で藤田氏は株主から罵声を浴びせられた。これに乗じたのが村上氏だ。
「これだけ株主に迷惑をかけたのだから、会社を解散して上場益を株主に返すべきだ」
村上氏の提案を藤田氏は拒否したが、村上氏の根回しは周到だった。
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