日本の産業界が「トランプ関税」に揺さぶられている。当初27.5%とされていた乗用車の輸入関税は15%に落ち着いたが、それでもトヨタ自動車をはじめとする日本の自動車メーカーの負担は重い。「泣く子と地頭には勝てない」に倣えば、グローバル・サプライチェーンに組み込まれた企業は「関税と為替には勝てない」。特に国境を跨ぐだけで無条件に徴収される「関税」は、企業の努力や実力に関係なく競争力を変えてしまう。ある種の「暴力」とも言える理不尽な仕打ちに企業はどう対抗すればいいのか。36年前のある業界に大きなヒントがある。関税によるネガティブ・インパクトを見事撥ね除けたケースがあるのだ。
関税半減の衝撃
1989年、日本のチョコレート業界は騒然としていた。前年、日本のチョコレートの輸入関税が20%から10%に引き下げられたからだ。チョコレートだけでなく、あらゆる製品において日本は、今の「トランプ関税」も顔負けの30〜40%という高い関税を輸入品に課し、国内産業を守ってきた。
戦後の復興期には国際的に「やむなし」と看過されてきた日本の高関税だが、1970年代後半、高度経済成長を成し遂げた日本が経済大国の仲間入りを果たすと、「さすがに、それはおかしいだろう」と、日本の主な輸出先である米国とEC(ヨーロッパ共同体)が圧力をかけてきた。
輸出で荒稼ぎをしていた自動車は、1978年に完成車と部品の輸入関税が撤廃され、完全自由化となり、「米国のビッグ3(ゼネラル・モーターズ=GM、フォードモーター、クライスラー)に蹂躙される」と大騒ぎになった。しかしその他の製品の高関税はそのままになっており、米国、ECから特にせっつかれたのが「チョコレート(33.8%)、ビスケット(38.5%)、スコッチウイスキー(リットル当たりの従量課税方式だったが、ならすと37%)」の3点セットだ。
海外旅行のお土産でチョコレートやウイスキーが喜ばれたのは、高関税ゆえに日本国内では「高嶺の花」だったからだ。
チョコレートの関税は82年に31.9%、83年に20%と段階的に引き下げられ、88年にはついに10%になった。
不二家の奇策
世界を見渡せば、チョコレートの本場である米国や欧州には、巨人のような菓子メーカーがひしめいている。日本のチョコメーカーを守ってきた「関税」の壁が3分の1以下になれば、津波のように巨人が押し寄せ、「国産チョコ」は壊滅してしまうのではないか。そんな恐怖が業界を覆っていた。
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source : 文藝春秋 2025年12月号 トランプ関税対策は日米チョコ戦争に学べ

