日本の政治構造を変化させる事件が起きた。10月10日、高市早苗自民党総裁と斉藤鉄夫公明党代表の会談が決裂し、公明党は自民党との連立を解消した。今回の事態に至る経緯を見てみよう。10月4日に高市氏が総裁に選出された直後から、公明党の自民党に対する不信感が頭をもたげてきた。確かに、高市氏は公明党の神経を逆なでするようなことをした。例えば、高市氏が総裁に選出された翌5日夜に国民民主の玉木雄一郎代表と東京都内で極秘に会談した。極秘の会談があったということが、すぐに表に出るあたりも、この人たちが秘密を守ることができないという情けない現状を示している。高市氏は、公明党の協力がなくても選挙を戦えると思っていたのだろう。でなければ公明党と事前に協議することなく、連立拡大の含みを持った秘密会談を野党党首とすることなど考えられない。
10月7日に高市氏と斉藤氏が会談し、両党の関係の調整を試みた。斉藤氏は、高市氏に対して、「政治とカネの問題」「靖国神社参拝を含む歴史認識問題」「過度な外国人排斥言説問題」の3点について、懸念を伝えた。「政治とカネの問題」を除いてコンセンサスが得られた。しかし、公明党は靖国神社参拝という思想信条問題で簡単に譲歩する高市氏に対して、「この人は軽い」と却って不信感を強めるようになった。
自民党の派閥パーティーによって捻出された裏金の全容解明をはじめとする「政治とカネの問題」に関して、公明党はもとより同党の支持母体である創価学会も、高市氏の姿勢に強い懸念と不満を持っていた。どうも新しい自民党の執行部は公明党や創価学会を舐めてかかっているのではないか、という危機意識を公明党支持者が強めるようになった。自民党が公明党に対して、対等の立場の連立与党であるという敬意を持った対応を取っていないのが原因だ。
権力には魔性がある
公明党は池田大作創価学会第3代会長によって創立された価値観政党だ。従って、創価学会の基本的価値観と相容れない政策を公明党が取ることはできない。創価学会にとって池田氏は永遠の師匠だ。従って、政治との関連で池田氏の基本的価値観を理解していれば、公明党の政策の閾値がわかる。この観点で重要なテキストが池田氏が創価学会の青少年を対象に作成した『青春対話』だ。創価学会の学習でよく用いられているテキストで、普及版が2006年に刊行された。筆者の手許にある第1巻は2024年の第36刷、第2巻は2023年の第23刷で、公明党の国会議員を含む創価学会員の間でよく読まれていることは間違いない。池田氏は権力に魔性があることについて、こう指摘する。
〈権力というのは魔性です。自分たちが思うように民衆をあやつり、自分たちを守ることが根本となっている。自分たちのやり方や目的に反する者は悪人として扱う矛盾の世界です。/仏法では、この地球は「第六天の魔王」が支配しているから、悪人を守り、善人を嫌う世界になっていると説く。第六天の魔王の心が、権力者の心に入り込んでいく〉
第六天の魔王とは、欲界(よっかい)の最上に住む他化自在天(たけじざいてん)のことだ。仏道修行の障害を作り出し、成仏を妨げる悪である。「政治とカネの問題」を解決することに後ろ向きな高市総裁、麻生太郎副総裁などの現自民党執行部が公明党からすれば第六天の魔王にはらわたが食いちぎられている人々のように映ったのであろう。

公明党が「下駄の雪」で、どんな状況でも自民党についてくるという認識は間違いだ。公明党の独自路線は沖縄で端的に現れている。公明党の沖縄県本部は、辺野古新基地建設に反対するのみではなく、米海兵隊の県外への移転を主張している。政治状況により、この立場を強く打ち出す時とそうでない時があるが、基本方針にブレはない。興味深いのは、辺野古新基地を推進するという立場を取っている中央の公明党が、沖縄の公明党の見解を容認していることだ。沖縄の創価学会員が平和への思いから辺野古新基地の建設や県内に米海兵隊が存在する状況を変えるべきだと考えていることを反映して、公明党沖縄県本部が取っている路線を中央の公明党が抑えつけることは、同党の基本的価値観に反すると、中央の党幹部が考えているからだ。こういうところに他の日本の国政政党と異なる公明党の特徴がある。
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