日本電産会長 自動車産業の「インテル」になる

日本再生、私の戦略

永守 重信 日本電産会長
ビジネス 経済 企業
「コロナはチャンス。2030年に売上10兆円を達成する」と語る日本電産・永守重信会長が描く日本の未来とは?/(聞き手・構成=井上久男)

<この記事のポイント>

●ほとんどのパソコンにはインテルの部品が入っている。これと同様に世界中の車を開けたら必ず日本電産のモーターが入っている状態を目指す
●たとえ1円の備品であっても稟議書で許可を取る「一円稟議」を取り入れて、コロナ禍でも過去最高の利益率を出せた
●今後は大学経営に力を入れ、世の中を変える奇人変人を育てていく
①なし
 
永守氏

「125歳までやる」

 今から47年前の1973年、3人の仲間とともに、自宅の納屋を改造して日本電産を立ち上げました。その時に作った「50年計画」では「売上高1兆円を目指す」と宣言しています。創業メンバーの一人である小部(博志、現副会長)は、「1億円の間違いじゃないですか」とびっくりしていましたが、2015年3月期には売上高1兆円を突破しました。

 2030年に向けて、私が掲げているのは売上高10兆円の達成です。いまの6倍以上ですから、みんな驚きでひっくり返りますけど、実現不可能だとは思いません。創業以来、だいたい12、3年のペースで売上高100億円、1000億円、1兆円の壁を突破してきました。これまでと同じように成長していけば、2030年には10兆円を達成できると確信しています。

 昨年8月、75歳の誕生日に作った「新50年計画」では、売上高10兆円に加えて、時価総額で世界のトップ10入りも掲げています。それ以来、私は「125歳までやる」と言っているんです。いろんなところで「いつまで会長をやるんですか?」と聞かれるのも面倒なので、そう言っておけば楽でしょう。今年の新入社員にも「君らが定年の時も私が退職辞令を出すぞ」と言ってやりました(笑)。

 10兆円企業に向けてカギとなるのが車載用モーターです。ブレーキや電動パワーステアリングなど自動車には数多くのモーターが使われています。すでに電動パワステ用モーターの世界シェアはナンバー1ですが、ほかの分野でもシェアを拡大していかなくてはなりません。売上高10兆円を達成した時には、5兆円分が車載関連事業になっているはずです。

 なかでも、いま最も力を入れているのが、モーターとそれを制御する半導体、ギアが一体となった「トラクションモーターシステム」です。これはエンジンの代わりに車を動かす電気自動車(EV)の心臓部。次世代自動車産業の覇権を左右するキーコンポーネントです。2030年には世界シェアの35%を目指しています。

 これまで、日本電産はピンチをチャンスに変えて成長してきました。リーマンショックが起こった翌年には過去最高益を出しましたし、そもそも、創業した年はオイルショックが起こった年でした。いま、日本企業はコロナ禍にあえいでいますが、社会が大きく変化している状況だからこそ、さらに成長できるチャンスだと思っています。

②創業時の社屋
 
創業時の社屋

EVのプラットフォームを握る

 IH炊飯器やゲーム機、スマートフォン、人工透析器など身の回りにある家電・医療機器類に必ず使われている精密小型モーター。この分野で世界シェア1位を誇るのが京都市に本社を構える日本電産だ。とくにパソコンで使われる記憶媒体「HDD(ハードディスク)」を動かすモーターは、世界シェア80%を有する。

 創業以来、M&Aにも力を入れ、「回るもの、動くもの」に特化して66社を買収。300社を超えるグループ企業を抱え、世界40カ国以上に拠点を置き、約12万人が働いている。2020年3月期の売上高は1兆5348億円だが、9月17日時点での株式時価総額はその4倍近い5兆7000億円に達した。自動車関連でいえば、ホンダを抜いてトヨタ自動車に次ぐ国内第2位だ。

 車載事業に力を入れるといっても、自動車メーカーになるつもりは全くありません。自動車メーカーは日本電産にとってお客さん。当社が完成車を作ったら、みんなライバルになってしまいます。お客さんとは絶対に競合しません。これが私のポリシーです。

 ただ、世界最大の自動車部品メーカーであるドイツのボッシュや、日本最大でトヨタグループのデンソーを目指すかといわれれば、単なる部品メーカーで終わるつもりもありません。

 日本電産が目指しているのはパソコンにおけるインテルです。ほとんどのパソコンにはインテルの部品が入っているでしょう。これと同じように車を開けたら必ず日本電産のモーターが入っていて、「Intel Inside」ならぬ、「Nidec(日本電産) Inside」というラベルを世界中の車のフロントガラスに貼り付けたい。

 将来的には、トラクションモーターに加えて、センサーやステアリング、ブレーキシステムなどの主要部品が搭載されたEVのプラットフォーム(車台)を作りたい。これさえあれば、あとは自動車メーカーがタイヤとボディを取り付ければ完成車が出来上がる。つまり、「このプラットフォームを買わなければ、EVはできない」と。そういう会社になりたいのです。

本社社屋外観
 
日本電産本社

時価総額で日本一を目指す

 今後、EVが伸びていくのは間違いありません。米国のテスラを見てください。コロナ禍でも絶好調で、売上高はトヨタの7分の1程度なのに、時価総額は2倍に迫る。テスラは完成車メーカーですから当社とは立ち位置が違いますが、私もいま、「2030年に時価総額で日本一になりたい」と発破をかけています。

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source : 文藝春秋 2020年11月号

genre : ビジネス 経済 企業