私は2024年夏に、米国コロラド州アスペンにある「アスペン物理学センター」の理事長を退任しました。
アスペンは、米国西部開拓時代に銀鉱の町として栄えましたが、19世紀終わりの経済恐慌でいったん寂れてしまいます。しかし、第二次世界大戦後に、シカゴの実業家ウォルター・ペプケらが中心となってスキー場を開発し、リゾート地としてよみがえりました。
ペプケは、文化活動の誘致にも取り組みます。美しい自然環境の中で芸術と文化が融合し、精神と身体を共に育む理想郷を実現しようとしたのです。
まず1949年に、ヨハン・ボルフガング・フォン・ゲーテの生誕200年記念祭をアスペンで開催しました。ドイツ文学の巨匠で、自然科学にも業績を残し、音楽家と深い交流があり、政治でも活躍したゲーテは、まさしくペプケの理想を体現する万能人でした。医師、思想家で音楽者でもあったアルベルト・シュバイツァーをはじめとする各界のリーダーが2000人以上集まった記念祭は、『タイム』誌の表紙を飾り、アスペンを一躍有名にしました。
このイベントの成功に基づき、同年には、政治・思想・ビジネスのリーダーが日常の雑用から離れて集い、社会や文化の諸問題を話し合う「アスペン研究所」を設立します。
私は、湾岸戦争が始まったばかりの1990年の夏に、ジョージ・H・W・ブッシュ米国大統領とマーガレット・サッチャー英国首相が、アスペン研究所で対談するのを聞きました。
古典を素材に、対話を通じてリーダーに不可欠な資質を育むアスペン・セミナーの方法は高く評価され、世界13か国に提携組織ができました。日本では、1998年に当時富士ゼロックス会長であった小林陽太郎を初代会長として「日本アスペン研究所」が発足しています。
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