米大統領選の予想が外れた理由

第9回

大栗 博司 物理学者
ビジネス サイエンス
 

 11月5日に行われた米国の大統領選挙は、ドナルド・トランプ前大統領の圧勝でした。事前には大接戦になるという予想が主流で、前回の選挙の時のように勝敗をめぐって暴動が起きるのではないかとも報道されていました。しかし、実際にはトランプが激戦7州をすべて制し、選挙人の数だけでなく全米の総得票数でも過半数を押さえました。

 大接戦になると予想されていたのは、全米の調査会社250社の約8割が、「支持率の差は2.5%以下」と推定していたからです。しかし私は、調査結果がこれほど揃うのは統計学的にあり得ないと考え、投票日2日前に、X(旧ツイッター)に次のようなポストをしました。

「米国の大統領選挙は『まれにみる大接戦』と言われていますが、通常の統計誤差に加え、世論調査会社の集団心理による系統誤差が影響している可能性があります。この系統誤差が各州で共通して現れているのなら、ふたを開けたときに意外な大差になっているかもしれません(11月3日午前8時12分)」

統計(、、)誤差」とは、サイコロを振るたびに結果が変わるような、偶然の揺らぎのことです。一方、サイコロに細工がされていて、出る目が偏っているときには、「系統(、、)誤差」があると言います。私は、今回の世論調査のデータを見て、系統誤差が起きていると判断しました。

 各調査会社は、州ごとに1000名程度の住民を対象に聴取をします。実際の支持率が50対50だった場合、ランダムに抽出した1000人について、「支持率の差が2.5%以下」となる確率はおよそ6割と計算されます。つまり、そのような調査結果を出すのは、250社の6割程度のはずだということです。

 ところが、実際の世論調査では、約8割の会社が「支持率の差は2.5%以下」と発表していました。6割と8割ではたいした違いはないと思うかもしれません。しかし、6割で起きるはずの現象が8割で起きる確率を計算してみると、なんと100億分の1だったのです。

 このようなときには、系統誤差を疑うのが統計学の定石です。

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source : 文藝春秋 2025年1月号

genre : ビジネス サイエンス