AIとノーベル賞

第8回

大栗 博司 物理学者

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ビジネス テクノロジー サイエンス
 

 今年度のノーベル賞のテーマのひとつは、人工知能(AI:アーティフィシャル・インテリジェンス)でした。

 物理学賞の受賞者は、AIの基盤技術である機械学習の開発に貢献しました。また、化学賞受賞者3名のうちの2名は、AIを使って、タンパク質の構造を予測する技術を開発しました。

 AIは日常生活の様々な場面にも登場しています。私はこの夏に北京で、AIを使った翻訳アプリに何度も助けられました。事務作業にチャットGPTなどのチャットボットを使っている人も多いでしょう。

 基礎科学でも、AIが活躍しています。ノーベル化学賞の授賞対象となったタンパク質の構造予測はその顕著な例ですが、私の研究分野に近いところでは、もう何十年も前から、素粒子実験から得られるビッグデータの分析にAIが使われています。

 欧州原子核研究機構にある世界最強の粒子加速器であるLHCは、陽子と呼ばれる粒子を、山手線1周程度の長さの加速器で加速して衝突させます。そこから出てくる粒子を分析し、新しい粒子を発見するのが主たる目的です。

 LHCでは1秒間に10億回もの衝突が起きるので、その一つひとつを人間が見て判断するのは不可能です。そこで、AIを使って実験データを解析します。

 最近では、スマホのロック解除などに使われている顔認証の技術も応用されています。人間の顔の特徴を判断できるように訓練されたAIが、陽子衝突から出てくる粒子の軌跡の画像を見て、新しい粒子かどうかを判定するのです。

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source : 文藝春秋 2024年12月号

genre : ビジネス テクノロジー サイエンス