なぜ「ひも」の理論を研究するのか

第5回

大栗 博司 物理学者

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ビジネス サイエンス
 

 今回は私の研究についてお話ししましょう。

 私が専門とする「素粒子物理学」の主要な研究所のひとつに、スイスとフランスの国境をまたいで位置する欧州原子核研究機構(CERN)があります。第二次世界大戦後に、分断されたヨーロッパの和解と復興のための共同事業の一環として設立され、一昨年の総予算は約2500億円と東京大学と同程度。この研究所で行われた実験に対しては、これまで2度のノーベル物理学賞が授与されています。

 また、大規模な共同研究の中で多くの研究者が情報を共有するために、インターネット技術の基礎であるワールド・ワイド・ウェブ(WWW)を開発し、無料で公開したことでも知られています。

 6月に、このCERNで国際会議「ストリングス」が開催されました。私の研究分野では最も重要な会議で、毎年1度開かれます。35年前に始まったときには参加者100名程度でしたが、最近は500名以上が対面参加する大きな会議になりました。日本では、2003年に京都、2018年に沖縄で開催され、私も組織委員として、会議を指揮しました。

 こうした国際会議では、最後に「総括講演」が行われるのが慣例です。会議で発表されたすべての研究成果を概観し、研究分野の将来を展望する責任の重い講演です。

 私がストリングス会議で最初に総括講演をしたのは、2004年にパリで開かれたときでした。初めてだったので何人かの先輩に相談したところ、その中のひとりが、「キャンセルされた講演についてコメントしてしまったことがある」と苦笑していました。1週間続く会議で全部の講演を聞き続けるのは大変なので、さぼっていてキャンセルされたことを知らなかったのでしょう。これはさすがにまずいので、総括講演を依頼されたら全部きちんと聞くようにしています。

 余談ですが、2004年はアテネ・オリンピックの年でした。その後も2008年ジュネーブ、2012年ミュンヘンと、偶然にも夏季オリンピックの年に総括講演を任されてきました。2016年は依頼がなかったのでこれでお役御免かと思いきや、東京オリンピックが1年延期になった2021年にまた依頼され、パリでオリンピックが開催される今年も総括講演をすることになりました。こうなったら、今年で夏季オリンピック7度目の出場になる馬術の杉谷泰造選手を目指したいと思っています。

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source : 文藝春秋 2024年9月号

genre : ビジネス サイエンス