テクノ・リバタリアンの夢想に騙されるな
アメリカ前大統領ジョー・バイデンは、2025年1月の退任演説の中で、次のような異例の警告を発した。
アメリカに、ごく少数の富裕者層による寡頭制が形成されつつあり、彼らの富と権力と影響力が、民主政治、基本的権利、自由を脅かしている。かつてアイゼンハワーが大統領退任演説で「軍産複合体」の権力を懸念したが、それから60年後の現在、恐れるべきは「テック産業複合体」の成立である、と。
だが、寡頭制やテック産業複合体といったバイデンの懸念は、第二次トランプ政権の下で早くも現実のものとなっている。トランプの大統領就任式に、イーロン・マスク、ジェフ・べゾス、マーク・ザッカーバーグ、ティム・クック、セルゲイ・ブリンといったテック業界の大物たちが参列したのは、その象徴であった。中でもマスクは、新設された政府効率化省(DOGE)のトップとして政権入りし、国際開発庁(USAID)の解体を進めるなど、やりたい放題である。
シリコンバレーのテック業界は、伝統的には、民主党とのつながりが深く、トランプが掲げたような保守的な価値観に対しては、むしろ背を向けていたはずだった。トランプ支持層の中心は衰退する製造業の労働者たちと思われるが、彼らは、テック業界の超富裕層とは対極的な存在である。

ところが、2024年の大統領選では、テック業界の大物たちはトランプ支持に回った。彼らは、どうして転向したのか。それは、バイデン政権がテック業界に対して厳しい姿勢で臨んだからであった。
例えば、バイデン政権の米連邦取引委員会(FTC)の委員長には、テック企業の市場独占に批判的な法学者のリナ・カーンが就任した。カーン率いるFTCは、アマゾン、マイクロソフト、メタといった巨大テック企業を反トラスト法違反の疑いで次々と提訴した。また、バイデン政権は暗号通貨(cryptocurrency)に対しても批判的で、コインベースやバイナンスといった暗号通貨の取引所を提訴したり、暗号通貨に対する規制を強化しようとしたりした。こうした動きにテック業界は激怒し、トランプ支持へと走ったのである。
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source : 文藝春秋 2025年5月号