【や】「安らかに眠る」炎上 原因は語感の変化にあり

飯間 浩明 『三省堂国語辞典』編集委員
ニュース 読書

国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです

 インフルエンサーの希空(のあ)さんが、夏に生まれたばかりの妹を抱いた写真を公開しました。そのことを10月7日にTBS NEWS DIGが配信したところ、炎上を招いてしまいました。記事タイトルが〈安らかに眠る妹・夢空(ゆめあ)ちゃんを抱く姿を公開〉だったからです。

「安らかに眠る」は亡くなった人に使うのではないか、というわけです。たしかに、慰霊などの場で「安らかに眠る」はよく使われるフレーズです。

 私は当初、あまり関心を払いませんでしたが、SNSでは批判がエスカレートしたようです。〈テレビ局の日本語力が落ちてるのかな〉〈日本語を知らないのでしょう〉はまだ穏やかなほうです。

 ただ、私自身は、「安らかに眠る」を文字通りの意味に使うことに、あまり違和感はありません。「世代によって語感が変化しており、それが炎上の原因になったのではないか」と考えました。

 そこで、国立国会図書館デジタルコレクションの資料を1925年から10年ごとにサンプル抽出し、「安らかに眠る」がどんな意味で使われているかを調べてみました。「安眠」の意味か、「永眠」の意味かという比較です。

 1925年〜65年を見ると、「安眠」の意味の例が6〜7割台を占めていました。〈安らかに眠る子の寝顔見つ〉(『新万葉集』第9巻・1938年)のような例は珍しくなかったのです。

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source : 文藝春秋 2025年12月号

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