【あ】「喘ぎ声」と聞いて変な想像する必要なし

飯間 浩明 『三省堂国語辞典』編集委員
ニュース 読書

国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです

 米の価格の高騰を受け、政府は備蓄米を流通させる政策を進めています。SNSでも米価に対する不満の声は多く、ある投稿では〈国民の喘(あえ)ぎ声〉という表現が使われました。これが本筋とは異なるところで波紋を呼びました。

 要は、「喘ぎ声」は性的な場面で使うことばだというのです。〈めっちゃわろたwww〉〈何で感じてるんだよwww〉と、笑いの記号も伴いつつ、揶揄(やゆ)する反応が多く見られました。

 一方、「喘ぎ声」「喘ぐ」は〈苦しそうに息をする際に漏れ出る声〉〈困難を抱えて苦悩する〉という意味があると指摘する反応もありました。「揶揄するほうがおかしい」という意見も強まり、論争は沈静化したようでした。

 私はこの一件を知り、興味深く思いました。私自身は〈国民の喘ぎ声〉と聞いても違和感はありません(性的な用法の存在は知っていますが)。ところが、揶揄する人々は強い違和感を持っているらしい。どういうことだろう。

 小説の例を見てみましょう。〈ロープの輪が締まる。鼻が、息を吸い込むために震えた。喘ぎ声が出る〉(伊坂幸太郎「グラスホッパー」2004年)、〈ほんの15秒差でゴールした真知栄子は〔略〕あえぎ声でドコロさんに問いかけた〉(森絵都「ラン」2008年)。性的でない使い方は珍しくありません。

 1970年の書籍を国会図書館デジタルコレクションで検索すると、25例中、性的でない例は18件で、圧倒的です。〈〔滝の下から〕彼が喘ぎ声で合図を送ってきた〉〈大地は最後の喘ぎ声も絶えて〉という具合。性的な例は5件、微妙な例は2件です(全文が表示されず文脈から推測したものも含む)。

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source : 文藝春秋 2025年8月号

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