国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
作家の三雲岳斗さんがSNSに投稿した文章(9月5日)に目を奪われました。原稿に〈モンスターを討伐する〉と書いたところ、校閲から「討伐」とは〈兵を派遣して罪のある者や従わない者などを討つこと〉だと意見がついたそうです。三雲さんはしかし、〈令和の現在では〔「モンスター討伐」と〕言うでしょ〉と疑問を呈しました。
SNSの常で、「どっちの側が正しいか」と議論になりました。「モンスター討伐」という表現は普通に使う、と三雲さんを支持する人もいれば、「原稿に意見をつけるのは職務に忠実だからだ」と校閲を支持する人もいます。
私はと言えば、この場合、「どっちの側が正しいか」にはあまり関心がありませんでした。それよりも、「これって、国語辞典の責任ではないか」と、事態を重く受け止めました。
国語辞典を見ると、たしかに「討伐」の意味については〈軍隊を出して、したがわない者をせめうつこと〉(『三省堂国語辞典』第8版)などと書いてあります。反乱軍・逆賊・朝敵などを討伐する、というのが辞書の説明どおりの使い方です。私の見た10種以上の国語辞典は、みな一致してこの説明でした。
一方で、「モンスター討伐」は言いそうな気がします。鬼ならば「退治する」「征伐する」と言うところですが、やや古風な感じも受けます。その点、「討伐」は新味があるのかもしれない。それで、〈地底怪獣を討伐〉〈強力な魔物を討伐〉〈ヤモリを討伐〉さらには〈憂鬱な月曜日を討伐〉という例まで出てくるのでしょう(すべてSNSの例)。
「モンスター討伐」の類例は100年以上前からありました。たとえば、井川寛一郎『インキ製造法』(1910年)では、インキに発生するカビについて〈此(この)悪魔を討伐する方術〉を述べます。森友道『淘宮術と処世』(1912年)では、桃太郎が〈鬼を討伐する〉という物語の構造に触れます。
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