人呼んで「50の貌を持つ男」…次々期検事総長の最有力候補が渡ってきた“危ない橋”

霞が関コンフィデンシャル特別編

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「森本は事件だけじゃない。行政能力もある」

 政界汚職や大型経済事件を次々に摘発し、「特捜検察のエース」と呼ばれてきた法務省刑事局長の森本宏(平成4年、検事任官)が、7月の法務省人事で法務事務次官に就任した。

 東京高検検事長となった川原隆司(元年)の後任で、川原が次期、森本が次々期の検事総長となる公算が極めて大きくなった。2010年に明らかになった大阪地検特捜部検事の証拠改竄事件以来、不祥事続きの検察が、国民からの信頼回復という重責を「剛腕」に託す格好になる。

 森本は1967年8月25日生まれの58歳。特捜検事としてのキャリアは、𠮷永祐介(昭和30年)、石川達紘(40年)、熊﨑勝彦(47年)ら、歴代の「特捜検査のエース」にひけを取らない。

森本宏・法務事務次官 ©時事通信社

 東京地検特捜部の検事として2006年の福島県知事汚職事件、2007年の防衛事務次官汚職事件の捜査の中核を担うと、特捜部副部長時代には2013年の医療法人徳洲会の公職選挙法違反で猪瀬直樹東京都知事を辞職に追い込んだ。2017年に特捜部長に就任すると、リニア中央新幹線工事受注をめぐる大手ゼネコンの談合事件を皮切りに、文部科学省幹部の汚職事件などを次々に摘発し、2018年には導入されたばかりの日本版司法取引(協議・合意制度)を駆使して、カルロス・ゴーン日産元会長らを逮捕、さらに2019年には秋元司衆院議員のIR汚職、2020年には河井克行元法相夫妻の公選法違反など、政官財のジャンルを問わずに次々と切り込んでいった。

「森本は事件だけじゃない。行政能力もある」とは、法務省で参事官を務めていた頃の上司の評である。特捜での輝かしい実績に目を奪われがちだが、森本は法務官僚としても鍛え抜かれている。検察の部下たちはロビイングに長けた森本を「50の貌を持つ男」とも呼んでいる。

 はじめて検察の現場から法務省に引き上げられたのは任官8年目の1999年。刑事局付検事として、法務省と検察現場のリエゾン(連絡役)を担うことになった。

 当時の検察は、金融失政批判を受けて解体された大蔵省にとどめを刺すことになった1998年の大蔵省接待汚職事件摘発をめぐり法務省と特捜検察の現場の対立の余燼がくすぶっていた。東京地検特捜部長の熊﨑が事実上、検察のセンターラインから外され、検事正の石川にも地方の検事長への異動の内示が出ると、時を同じくして、則定衛東京高検検事長(38年)の女性スキャンダルが発覚。辞職に追い込まれ、検事総長人事が混乱するドタバタ劇も起きた。

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