新春座談会 高市早苗首相の通信簿

浜崎 洋介 文芸評論家
鈴木 涼美 作家
マライ・メントライン 著述家・翻訳家
久江 雅彦 共同通信編集委員兼論説委員
ニュース 社会 政治

初の女性宰相の1学期を男女4名の識者が“360度評価”

女性首相は「ガラスの崖」?高支持率の理由とは

 

 浜崎 10月21日の高市早苗政権発足からおよそ2カ月が経ちました。僕自身は、現時点では高市政権を支持していますが、高市さんのことを「女性だから」という文脈で支持している人は、女性を含めて多くはないと思います。70パーセント前後の高支持率を構成しているのは、コアな保守層ではなく、“普通の人々”だという印象です。

 マライ 「女性を首相に!」という社会的なムーブメントの結果として、首相になったわけではありませんからね。ドイツではアンゲラ・メルケルが2005年から16年間も首相を務めましたが、彼女もまた、「女性だから」という理由で選ばれたリーダーではありませんでした。その点は、高市さんと同じです。

 高市さんが首相になった日、私も日本研究の一環で「女性首相誕生をどう思いますか?」と街頭でインタビューして回りました。すると、「なんか期待したい」という答えが、すごく多かったんです。「期待しています」でなく、「期待したい」というのは絶妙な日本語ですよね。首相になったなら、ついでに期待しようかな、といった感覚でしょう。

高市早苗首相 Ⓒ時事通信社

 鈴木 女性だから首相に選ばれた、という感じはしないし、高市さんが女性の代弁者とも思えません。

 選ばれた過程も気に掛かります。高市さんが首相に選ばれたのは、いわゆる「ガラスの崖」現象のひとつなんじゃないかと。失敗する可能性が高い危機的状況では女性がリーダーにつきやすいとされる現象で、世界中で見られます。22年にわずか49日で退陣した、イギリスのリズ・トラス首相もそうでした。

 昨年の参議院選挙で大敗した自民党にとって、女性を首相に据えるのはかなりの博打だったと思います。陰謀論のように聞こえてしまうと嫌ですが、私は「やっぱり女性は駄目だった」とレッテルを貼りたい誰かが高市首相を誕生させたのではないかとつい訝しんでしまう。今は異様なほど支持率が高いけれど、彼女を持ち上げている人が掌を返したとき、その攻撃が「女性」そのものに向かう可能性は結構あると思います。

参政党との類似点

 久江 高市首相を生み出した要因は、現在の自民党が置かれた状況による、構造的なものでしょう。かつての自民党は、右派から中道まで抱えていた。2009年に下野してから「保守政党」と綱領に入れ、イデオロギー色を打ち出すようになりました。それで政権を奪還して、もともと傍流だった清和会(旧安倍派)は、100人規模に膨れ上がった。その過程において、下支えする保守的な支持層も大きくなっていった。でも、2022年の安倍(晋三)さんの死去と旧統一教会問題、その後の「裏金問題」で旗頭の安倍派がゴッソリいなくなってしまった。かといってその空白に高市さんがすんなり入ったわけではない。彼女は清和会を辞めた人だし、巷間言われるように党内でも保守の本流とは思われていなかった。ただ、支持層は残っているのに行き場がない。石破茂首相の登場で、清和会を支持していた右派や保守層の一部は参政党や国民民主党、日本保守党に流れた。党としてはこの流れを止めなければならない局面で、「勝てそう」という打算の産物が高市首相だった。それが結果として女性だったという認識です。

久江雅彦氏 Ⓒ文藝春秋

 浜崎 おっしゃる通りです。その上で、この高支持率を叩き出した背景に国民の潜在的な不満と不安があったことは間違いありません。主に次の2点です。一つは緊縮財政の問題、もう一つは外国人問題です。

 プライマリーバランス(基礎的財政収支)という不条理な財政規律に囚われた財務省が、その緊縮財政によって長くデフレを放置してきたわけですが、加えて、ここ最近の物価高に対する国民の我慢はもう限界に達していました。その点、「債務残高対GDP比」という、新しい、しかし世界標準の財政規律によって21.3兆円の経済対策を打ち出したことには、時代の転換と共に、高市さんの「本気」を感じましたね。

 そして、外国人問題ですが、分かり易いところで言えば、たとえばオーバーツーリズムです。僕も京都にいるのでよくわかりますが、観光客の8割、9割が外国人ですよ。これじゃ、地元住民の不満も高まるに決まっているし、旅行したいのに出来ない日本人の不満も高まります。

 こういった不満や不安の結果が、久江さんもおっしゃる通り、昨年の参議院選挙での参政党現象でしょう。参政党は一般の人たちが抱えている潜在的な不安や不満を背景に躍進したわけです。その状況下で、自民党内で押し出されたのが、高市さんだった。ライバルの小泉進次郎さんに比べて、高市さんが党内で傍流であるのは明らかですが、その傍流が勝ったという事実は、トランプ現象と同じで、時代の潮目が完全に変わったことを意味しています。

 鈴木 私は高市さんを支持する人に直接会ったことがありませんが、ネット上では毎日大量に見かけます。確かに、参政党と高市さんの支持層が近いというのは頷けます。SNSには、「参政党とさなぴーが好き」みたいな書き込みが、結構ありますよね。参院選で参政党のさや(塩入清香)さんが、かなりの票を取って当選するなど、保守派の男性たちが女性を旗印にして集まる現象がありますが、それによって批判がおかしな論点ずらしをされることがあります。「女なのに女性リーダーである高市首相を批判するの? やっぱり女の敵は女だ」みたいな空気を作られるのは非常に不快です。

極右政党は女性が好き?

 マライ 涼美さんが言ったことは当たっている。ヨーロッパの極右政党には女性リーダーが多いんですね。たとえばドイツ国内で政党支持率がトップであるAfD(ドイツのための選択肢)の共同党首であるアリス・ワイデル。党としては極右で、反グローバリズムを掲げているけど、彼女自身は同性愛者で、スリランカ人がパートナーで、しかもドイツではなくスイス在住だったりする。本人のプライベートはめちゃくちゃグローバルでダイバーシティなんです(笑)。そんな党首の人柄をアピールして、支持者たちは「極右だけど、そんなに狭量じゃない。悪い政党じゃないでしょう?」という言い訳に使っているんですよ。反グローバリズムは男性より女性が主張するほうが政治的に有利になるのが、世界の潮流かもしれません。

AfDのアリス・ワイデル共同党首 Ⓒ時事通信社

 久江 高市政権の支持率の内訳をみると、20~40代が特に厚くて、年齢が上がるほど支持率は下がっています。これは石破さんの時とまるで正反対。浜崎さんのおっしゃるように、そこには経済に対する不満や怒りがあると思う。ただプライマリーバランスとか緊縮財政とか、国家財政なんて気にしているのはインテリなど一部の国民だけで、参政党支持層や若い世代にとっては、おそらくもっと単純に、家計が苦しいことに対するネガティブな感情があるのだろうと私は思います。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2026年2月号

genre : ニュース 社会 政治