神保 日本が直面する安全保障環境を考えれば、核を含む抑止のあり方を正面から点検し直すことは、もはや避けて通れない課題です。私は外交・安全保障の研究を進めるなかで、欧州のNATOのような多国間安保体制を東アジアに築くことの難しさを痛感してきました。安全保障環境が大きく異なるからです。
しかし、欧州と東アジアに共通する力学の前提にあるのは、抑止力を形成するバランス・オブ・パワーであり、最後の砦となる核兵器の存在です。米国は自国のみならず同盟国が核攻撃を受けた場合、報復として核を使用する「拡大抑止」で国際秩序と地域の安定を保ってきました。
しかし、米国の核の傘の信頼性をめぐる国際環境は不確実性を増しています。ロシアはウクライナ戦争で「戦術核の使用もあり得る」として、公然と核による威嚇を行ない、米国と対峙する中国は核戦力を急速に増強し、北朝鮮の非核化はほぼ絶望的な状況にあります。この三国に囲まれる日本は、とりわけ厳しい安全保障環境の下に置かれている。抑止の構造的変化を冷静に分析し“新たな核の秩序”にいかに向き合うべきか。核を正面から論じることが、いま日本にも求められています。

用田 私は2010年の退官まで、九州や沖縄を管轄する陸上自衛隊の西部方面総監を務めました。
陸上自衛隊は、冷戦時代に主にソ連の脅威に対応した名残で、長らく北海道などに部隊や装備を重点的に配備してきました。それに対し現在は、中国の急速な台頭を受けて、南西諸島地域で防衛力を強化するいわゆる「南西シフト」を強力に進めています。
「南西防衛」は09年の非公開演習から――当時は「南西の壁」(主戦力としての陸自と動的な空・海自の対艦ミサイルで中国艦隊を封印して米軍が打撃し壊滅させる)と呼びました――事実上、始まりました。
総監として赴任する際、「今後は南西の防衛が日本の防衛の要となり、これには陸自単独ではなく、陸海空自の統合の柱に日米の固い鎧を着る」ことが必須だと考えていました。しかし、防衛省の方針として正式に認知されていない中での大きな方向転換ですから「頭のおかしな指揮官が来た」と部下にも理解されない四面楚歌でしたが、第七艦隊司令官などの米軍には強い印象を与えたようです。
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source : 文藝春秋 2026年1月号 中国には核保有も選択肢だ

