イランの核武装は何の問題もない

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エマニュエル・トッド 歴史人口学者・家族人類学者
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ペルシア2500年の歴史を引き継ぎ、民主化革命を成し遂げた中東の大国

 6月13日、イスラエルが、イランへの先制攻撃に踏み切り、核関連施設などを空爆し、軍幹部や科学者の「斬首作戦」も敢行しました。続く6月21日、今度は米軍がトマホークミサイルとバンカーバスターでイランの核施設を空爆しました。

 イランだけでなく中露や国連事務総長が「国連憲章や国際法違反でイランの主権や領土への侵害だ」と非難しましたが、欧米では、ガザへの攻撃ほど強い反発は起きていません。「イランは核を持つべきではない」という米国とイスラエルの言い分を多くの人が共有しているからでしょう。日本の方も大部分は同じ認識だと思います。

 しかし私は「イランの核武装は何の問題もない」と考えます。それどころか、「日本の核武装と同様に、むしろイランは核武装した方が望ましい」と。

 核兵器に関して一つの歴史的教訓があります。「核戦争のリスクは“不均衡”から生まれる」です。1945年の状況がまさにそうで、世界で米国だけが核を保有していたために、広島と長崎でこれを使用できたのです。

 逆に冷戦時代に核戦争は起きませんでした。戦後、第三次まで続いた印パ戦争も、双方が核武装した後に収まり、時折、武力衝突は起こすものの戦争にまでは至っていません。

 今日、地域的緊張が高まっているのは、東アジアと中東です。核を持たない日本が核を持つ中国と北朝鮮に対峙し、中東ではイスラエルだけが核を持っている。つまり“核の不均衡”が生じていて、これが不安定な状況をつくりだしているのです。日本の核保有が東アジアの地域的安定に寄与するのと同じように、イランの核保有は、イスラエルの暴走に対する抑止として機能し、中東地域の安定に寄与するはずです。

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source : 文藝春秋 2025年9月号

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