「馬車馬のように働く」とは昔から使われている言い回しですが、現代では多くの人がネガティブな受け止め方をするようです。めちゃくちゃなハードワークを強制されると思うのかもしれません。高市早苗首相が「馬車馬のように働いていただきます」と語った言葉が批判されたのは、そのためでしょう。高市発言とそれへの批判を眺めていると、双方ともに本当の馬車馬がどのように働いているのか知っているのかなと思ってしまいます。
というのも、私自身が馬車馬を操る馭者(ぎょしゃ)として働いているからです。現代の馬車馬は、健やかなワークライフバランスのもとでのんびり働いているんですよ、と言いたくなってしまうのです。
私が馭者を務めているのは、北海道帯広市で2019年から運行している「馬車BAR」を牽く馬です。これは、客席で夜景を愛でながら十勝平野のお酒や食を楽しむ観光アクティビティです。私は「馬車BAR」の馭者を立ち上げ当初から任されており、これまで7年間にわたって馬車馬のムサシコマと共に働いてきました。
ムサシコマは北海道北見市生まれ、満13歳の牡。その昔に北海道開拓で活躍した“輓馬(ばんば)”の末裔にあたります。サラブレッドの約2倍もある体のサイズを活かして、ムサシコマは帯広競馬場の「ばんえい競馬」で活躍しました。158回のレースに出走し、13回も一着をとっています。ばんえい競馬は一般的な競馬とは異なり、数百キログラムのソリを砂地で牽引する種目です。このような競技で走っていたムサシコマには、舗装された道路で馬車を牽くことは、とても簡単な仕事に感じられていることでしょう。しかも「馬車BAR」は週4回の運行ですから、ムサシコマは完全週休3日制。1日の実働は3時間弱ですし、出勤するとニンジン、バナナ、リンゴ、黒糖など好物の“甘い物”をお客様からもらえるのでムサシコマは楽しそうに働いています。また、体調が悪いときには予約を断ってでも運行を中止しています。このように、恵まれたワークライフバランスのもとでムサシコマは働いています。

そもそも「馬車馬のように働く」と簡単に言いますが、体格がよければどんな馬でもなれるわけではありません。
まず、馭者の指示にきちんと従う馬であることが最低条件です。この点、元競走馬のムサシコマは調教済みなので、安心できる馬車馬と言えます。町なかを歩かせても、信号ではきちんと停まりますし、交差点を左折するときも滑らかに曲がります。
さらに馬車馬には、小さなことに動じない胆力が必要です。ちょっとした変化に驚いてしまうようでは、馬車の運行がたちゆかないからです。自動車が行き交う車道を平然と歩み、選挙カーの大音量にも怯えない度胸を持っていなければなりません。
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