ドンなき後の芸能界

K-POPに負けるな——日本の音楽業界は変わるのか

髙橋 大介 ライター

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 1月20日、グランドプリンスホテル新高輪の大宴会場「崑崙」「北辰」の二間を借り切って開かれた「CEIPA(一般社団法人カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会)」の新年賀詞交歓会。日本の音楽業界の主要5団体が2023年12月に新たに設立した団体だが、会場は3000人もの業界関係者で溢れかえっていた。

 そこで「スペシャルゲスト」と司会に紹介されて壇上に立ったのは、高市早苗首相だった。神戸大学時代はヘビーメタルバンドでドラムを担当し、この1週間前にも韓国・李在明大統領が来日した際、ドラムセッションを披露するなど、音楽好きとして知られている。

「日本の音楽は世界のマーケットで闘えると私は確信をいたしております。昨年成立した550億円を超える補正予算も活用して、コンテンツ産業の海外売上20兆円、ここを目標に複数年でのご支援もお約束し、官民連携で強力に後押しをしてまいります。力を合わせましょう! 頑張りましょう!」

 金屏風を背景に高市首相は両拳を身体の前で握りしめてみせた。力強い熱のこもったスピーチに、業界関係者たちの顔も上気しているように見えた。

CEIPAの新年会で挨拶する高市早苗首相(CEIPA提供)

 昨年11月、高市首相肝煎りで始まった日本成長戦略会議の第1回会合では、17の戦略分野が掲げられ、AI・半導体、造船などと並んで、アニメ、マンガなどのコンテンツ産業もその一つに数えられた。24年には海外売上高が6兆円と、半導体や鉄鋼を抜き、自動車産業に次ぐ規模となっている。音楽もそこに含まれ、《更なる海外発信に向けた環境整備を推進》するという総合経済対策の重点施策に挙げられているのだ。

 だが、アニメやゲームに比べて、音楽ビジネスは構造改革の緒に就いたばかりというのが実情だろう。

世代交代する芸能界のドン

 この半月ほど前の昨年大晦日に放送された「NHK紅白歌合戦」は、例年に増して話題の多い回となった。福山雅治とB′zの稲葉浩志の共演や、荒井由実時代の曲を披露した松任谷由実に加えて、21年末に娘の神田沙也加を亡くし出場を急遽取りやめたあと、5年ぶりの出場となった松田聖子が紅白それぞれのトリの歌手のあとに大トリを務め、矢沢永吉がサプライズ登場してNHKホールを沸かせた。

 だが舞台裏でも“大物サプライズゲスト”が姿を見せたのだ。

「本番当日の午後3時頃、会場のNHKホールに隣接するNHKの食堂にバーニングプロダクション創業者の周防(すほう)郁雄(85)さんが現れたのです。例年、そこで周防さんを囲んで、音事協(日本音楽事業者協会)幹部などで紅白を観るのが恒例で、芸能界のドンである周防さんへの年末の挨拶の場ともなっていました。

 ただ、周防さんは24年に脳梗塞に倒れて社長を降りて高級老人施設に入り、その年の紅白には姿を見せなかった。その周防さんが久しぶりに紅白の現場に現れたとなって、レコード会社幹部らが慌てて駆けつけるなど、挨拶する人が長蛇の列を作っていました」(音楽業界関係者)

 小泉今日子を発掘したことで知られる周防は芸能界で大きな影響力を持ち、紅白でも演歌勢のキャスティングに影響力を持つと言われている。他方でサザンオールスターズの初期の曲の音楽出版権を持つなど、権利ビジネスにいち早く目をつけたことでも知られている。

 すわドンの現場復帰かと思いきや、そうではないと語るのは、NHK関係者だ。

「本番までは残らず、1時間ほどで引き上げていきました。昨年10月には、同じNHKの歌番組『うたコン』の収録現場を訪れ、例年のようにプロデューサーに、紅白での演歌勢出演について“お願い”をしていったのですが、後継社長である子息の彰悟氏も連れていました。息子への権限移譲の布石でしょう」

 折しも古稀を迎えたバーニング所属の郷ひろみが紅白卒業を宣言し、事務所にとっては一つの節目を感じさせる紅白となった。

 また周防の盟友で、昨年7月に鬼籍に入った川村龍夫(享年84)が率いたケイダッシュからは、紅白の司会を三度務めた堺正章が特別枠で出演し、ザ・スパイダース時代などの曲をメドレーで披露した。

 そのケイダッシュは年末、社長交代の挨拶状を業界に回した。

〈社業発展に邁進努力いたす所存でございますので前任者同様のご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます〉

 今年1月1日付での社長就任を告げたのは、川村の息子の川村太一。太一は大手広告代理店の博報堂を退社して家業を継いだ。

「紅白でも堺さんの所属事務所の新社長として、最後まで残って関係者に挨拶をしていました。博報堂時代は営業マンとして活躍したそうで、二代目とは思えない腰の低さが印象的でした。あのバーニングとケイダッシュが次世代へバトンタッチするなんて。一時代が終わろうとしている、感慨深い年の瀬でした」(同前)

紅白とレコ大

 戦後日本の音楽業界は進駐軍向けの興行でスタートした渡辺プロダクション(ナベプロ)を中心に、大手プロダクションによって牽引された。プロダクションは新人を発掘し、売れっ子の作詞家、作曲家にイメージに合う曲を作らせ、高視聴率を誇った紅白や民放の音楽番組と手を取り合いながら人気歌手へと育て上げた。音楽業界とはつまるところ、裏方の政治的手腕が発揮される芸能界そのものだった。

 その後、吉田拓郎や井上陽水など自分で作詞作曲をして歌うシンガーソングライターやバンドが現れ、ヒットチャートの中心は彼らとなった。歌手からアーティストの時代になったのだ。2010年代に入ると、テレビでゴールデン帯から音楽番組が姿を消していった。世の中から、誰もが口ずさめるヒット曲というものが無くなって久しい。

 そんな時代の趨勢にあって、紅白の視聴率も右肩下がりとなり、23年は第二部で過去最低の31.9%まで落ち込んだ。もう一つの年末の音楽祭典であるTBSの「輝く!日本レコード大賞」では、15年に大賞を獲った三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEが所属するLDHから、選考に強い影響力を持つバーニングにプロモーション業務委託費として1億円が渡っていたことが「週刊文春」に報じられるなど、その権威は地に墜ちていた。

 だが、昨年は紅白が第二部の平均世帯視聴率35.2%と3年ぶりに35%超えを記録。レコ大もいま最も勢いのあるMrs. GREEN APPLEが3連覇を果たして視聴率もわずかながら前年を上回るなど、師走の“二大音楽祭典”の人気も下げ止まりの気配を見せている。

最優秀アーティスト賞を受賞したMrs. GREEN APPLE Ⓒ時事通信社

 その理由は取りも直さず、大衆、とくに音楽消費の中心である若者との乖離を埋めたことにあるのだろう。この二大祭典がなぜ変わったのか。実は、関係者に大きなインパクトを与えたイベントが半年前に京都で開催されていたことも見逃せない。それは昨年5月、アジア版のグラミー賞をコンセプトに第1回が開催された「MUSIC AWARDS JAPAN(MAJ)2025」だ。

 主催は冒頭の新年会を開いたCEIPAで、協力に文化庁、メインスポンサーはトヨタと、オールジャパンの陣容。国内・海外の両カテゴリーを合わせると62の賞が設けられ、世界規模のアワード(音楽賞)であることを標榜した。

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source : 文藝春秋 2026年3月号

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