ハーヴェイ・ワインスタイン、ジミー・サヴィル、ジェフリー・エプスタインら世界的に有名な権力を持った性犯罪者と同種の存在であったジャニー喜多川氏(2019年87歳没)。60年間にわたり数100人の子どもたち(男子児童)を凌辱してきたその犯罪は、被害者が「人類史上最悪の性虐待事件」と語ったように異常かつ悪質なものであった。筆者が記者として取材した1999年の週刊文春ではその犯罪行為をキャンペーンで報じたが、当時からこの24年間、大手メディアはそれを問題視することはなく、2023年のBBC報道によってようやく顕在化した。
「現在の先進国においては児童虐待に加担した企業は世論の圧力によって閉鎖か大規模な改革に追い込まれます。またそうした企業の商品は、この場合はタレントかもしれませんが、犯罪との関与をきちんと説明しない以上、二度と扱われることはありません。取引先も同様の扱い。道義的責任は免れないのです」(米ジャーナリスト)
海外メディアに切り込まれ世間の批判を浴びた結果、メディアや広告を支配する立場にいたジャニーズ事務所は同年10月に解体。事業継続社の「SMILE-UP.」とタレントマネージメントの受け皿になる新会社「STARTO ENTERTAINMENT」に分かれ再出発した。だが、被害者の補償状況を含め、旧ジャニーズ事務所を取り巻く環境、長年隠蔽する側に従ってきた業界はどう変わったのか。

「禊(みそぎ)は完全に終わった感がある」。テレビや広告、芸能関係者を取材するとこの意見が大勢を占めた。取材感は「過去の話」と、もはや取り上げるべき問題ではないという消極的なものだ。「日々新しいニュースが入ってくるのでそっちを報じるのが当然」とテレビ局報道幹部が弁明するように、国連人権理事会がジャニーズ問題を未曾有の性犯罪・人権侵害と非難するわりには国内における風化は激しく、実際に報道頻度は著しく減少している。
被害者のケア・補償を行うスマイル社は2024年9月13日時点で、被害者救済委員会から補償内容を通知した524人のうち、96%に当たる501人と補償内容で合意し、492人に補償金を支払ったことを明かした。補償窓口への申告者数は998人になったが、そのうち連絡が取れなくなってしまっている申告者が237人に上るとした。
そして2024年9月には、元所属タレントが性加害の認定や謝罪を求めて活動してきた「ジャニーズ性加害問題当事者の会」が解散した。トラウマに苦しみながら性被害を告発した方々の勇気には敬意を表するべきであるが、SNSでは「補償金が欲しいだけの連中」「売名行為」という陰湿な攻撃やセクシャリティにまつわる誹謗中傷が彼らを二重に傷つけている実情があり、被害を訴えていた元所属タレントの40代男性が自殺したことが2023年11月にわかった。恋愛や性行動がわからない少年期に受けた“魂の殺人”は親きょうだいや親友、配偶者にも話せない秘密であり、生涯そのトラウマから解き放たれることはない。
ジャニー氏はすでに亡くなっており、「刑事事件になっていないため報道に及び腰だった」という新聞記者の証言がある。だがそれは、後ろめたさを隠す保身のための言い訳にすぎない。深刻な性犯罪を芸能界の通過儀礼として黙認し、関係する業界全体で組織的に隠蔽、あるいは知っているのに見過ごしてきたことが主犯を最終的に放免した。
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